"Time Vaults" (1982)

1. Liquidator
2. Rift Valley
3. Tarzan
4. Coil Night
5. Time Vaults
6. Drift (I Hope It Won't)
7. Roncevaux
8. It All Went Up
9. Faint and Forsaken
10. Black Room
ソファ・サウンドの名前を用いた最初期のカセット・リリースとして「SS3」の番号で発表されたものの再版CDである。オリジナルのカセットは1982年に発表されているが、1985年のDemi-MondeレーベルからのLPとしての再版(DM003 UK)以来何度か出ている。それらはカセットのジャケットをそのまま用いたものと、LP用にデザインされた図柄を表に持ってきたものと2種類があるが、内容はまったく同じなのでダブって買わないように注意していただきたい。CDはThunderbolt/Demi-Monde(UK, 1992)、Spalax(CD 14847 UK,1996) などがある。
「時間貯蔵庫」というタイトルが示すように、これらは埋もれた記録であり、普通なら日の目を見ることのないものばかりである。カセットでのリリース時にクレジットされたピーターによる解説では、これらは「スタジオ・クオリティではない」と冒頭で定義されている。練習を録音したカセットが音源だったりしている。なかにはラフミックスというものもあるが、いずれにせよ最終的なレコーディングのステージにまで進むことのなかったマテリアルばかりである。
メンバーはクラシック・ライン・アップの4人。録音された時期は「失われたそれ」「『ポウンハーツ』の後、『ゴッドブラフ』の前」である。作詞・作曲と録音時期のクレジットは上記の通りであるが、3曲の歌もの(1,2,7)でのボーカルと、1曲(4)でのサックスがカセットでの最初のリリースを行う際にオーバーダブされたとある。それ以外は生の音だ。ここにある楽曲は必ずしも4人で演奏されたものばかりではないというのも特徴のひとつだろうか。カセットでクレジットされている文字が再発されたLP/CDに必ずしも正確に複写されているわけではないのでご注意いただきたい。
「Liquidator」1973年にロックフィールド・スタジオで録音されたピーターによる楽曲でラフ・ミックスだと思われる。タイトルは「精算人」で歌詞にはバンドがいかに貧乏で仲間割れをしているかが歌われている。ものすごい洒落だが、ボーカルはオーバーダブということで、最初からこの歌詞だったのかは疑問が残る。オーバーダブは1981年に行われている。HB=bass, PH=piano, vox, DJ=sax, GE=drums
「Rift Valley」軽快なリズムで歌われるこの曲は1975年の録音。ヒューバントンを除く3人で、Norton Canonで録音されている。ピーターはギターを弾いているが、この曲がもっと最後までアレンジをされていたらなかなかのいい曲に仕上がっていたのではないだろうかと思わせる。ベースとオルガンなしでもこの音はVdGGそのものだ。
「Tarzan」は四人による1974年の録音。ここでもヒューはオルガンではなくベースを弾いている。ピーターがその分Eピアノでがんばっている。バックに鳥の鳴き声らしきものがずっと重ねられているのが特徴的。トロピカルな雰囲気はその音とベース・ラインの合わせ技か。録音はロックフィールド・スタジオである。
前の曲の最後がざわざわとしたスタジオ内のメンバーの声がかすかに聞こえ、ピーターがカウントを取り始まるのが「Coil Night」である。これはサックスが後にオーバーダブされているが、前曲「ターザン」のベースラインを踏襲したようなフレーズであり、流して聞いているとひとつの極の展開したもののように思われる。曲を書いたのはデヴィッドで、Norton Canonでの1975年の録音。
つづく「Time Vaults」はさまざまな練習テープからのコラージュである。時期もスタジオもばらばらなようで、詳しいクレジットは一切ない。音質もばらばらであるが、それが返って良い雰囲気を作り出している。「赤鼻のトナカイ」の一節も飛び出したり、と非常に楽しいものだ。
カセットの旧サイド1の最後の曲であった「Drift (I Hope It Won't)」はヒューによる短い曲で録音はRose-on-Wyeで1972年に行われている。ここではピーターは参加しておらず、イントロのざわめきの中から徐々にヒューのオルガンを軸にデヴィッドとガイが盛り上げている。颯爽とした雰囲気の曲。どちらかといえば大曲の最後の方にでも持ってくると映えるだろうと想像力を欠きたてられるが短く、最後はなにやらスタジオでごちゃごちゃやっているノイズに戻り、デヴィッドのファンファーレじみた音で終わる。
旧サイド2に移り、ピーターによるボーカル・ナンバー
「Roncevaux」である。ここではヒューはオルガンを弾き、ピーターはギターを弾いている。これもまた最後まで仕上げてほしかったVdGG全開のナンバーである。録音はRoss-on-Wyeで1972年に行われている。7分近くもあり、音が歪みまくっていることがとても残念だ。静と動の対比も激しく、メロディも美しい。この曲がなぜ最終のレコーディングまで行かなかったのかが不思議なくらいである。
ほとんど曲が変わったことに気がつくまもなく、まるで『展開』しているかのように聞こえる「It All Went Up」へと移るとこれはピーターの作だが完全なインストで、Crowboroughで1971年に録音されたとあるから、もしかすると「ポウン・ハーツ」録音の際の練習テープから持ってきたのかもしれない。曲はピーターが書いているがピーター地震は演奏に参加していない。
そして少しばかり神経質な笑い声に導かれて「Faint and Forsaken」がフェード・インしてくる。ピーターはピアノ、ヒューはオルガンで熱い演奏を繰り広げている。録音はNorton Canonで1975年に行われている。短いが圧倒的な雰囲気を持つこの曲もまたとてもすばらしい。
最後を締めくくるのは
「Black Room」のバンド・バージョン。今でこそ「ザ・ボックス」でのVdGGとしての演奏を聴くことができるが、これがリリースされた1982年には、このテープだけが存在する唯一のバンド・バージョンだった。ピーターのソロ・アルバム「カメレオン」でのスタジオ・バージョンは1973年発表だったから、こちらの録音の方が寄り古いものだと推測できる。また、「ザ・タワー」を含まない形での演奏となっているためオリジナルな形を見ることもできるだろう。
この作品の版権がどうなっているのかがよく分からない。同じようにカセットでソファからリリースされた「ループス&リールズ」は後にFie!レーベルからCD化されたが、こちらはいまだにそういう話はない。最初に書いたように他のレコード会社から何度も出しなおされているのは、ライセンスによるものか、版権買取によるものか。いずれにせよカセットでは入手不可能なだけにCDとしてまだ探せる範囲にあるというのは大変ありがたい。
by BLOG Master 宮崎