さて、始めましょうか。「出来事に満ちた」1週間だとピーターが書いた東京での公演を振り返ってみましょう。感想文をかかれる方も情報として参考にどうぞ。まずは初日の記憶です。
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この日私は、早朝5時に起きて成田空港へDJを迎えに行ったのです。飛行機到着のサインが出てからDJが出てくるまで、結局1時間近くも待ちました。ようやく出てきたDJを連れて駐車場へ行くと私が車を止めたフロアのサインが偶然にも白熊。DJの思い入れの深い曲のタイトル(「Polar Bear」)そのものです。そこからホテルまで再び車を走らせました。ところが都内に入ってからホテルまでが大渋滞で、ほとんど1時間近くロスしてしまいました。
ホテルに帰ってきてから、ピーターの気分が悪かったので病院に行ってチェックをしてもらいましたが、まったく問題はありませんでした。時差とか疲れとかのせいではないか、と彼は言っていました。ということで、DJも一緒にみんな揃って会場入りをしたのです。
会場に入ってからは、プロのミュージシャンとしてのピーターの顔が現れたのです。サウンド・チェックは、ピアノとギターをかなり激し目に演奏しながら叫びます。そうです歌わないのです。「うぉ~おぉお~」という感じで節をつけて叫ぶのです。これには大変驚かされました。時間の関係もあってサウンド・チェックはあっという間に終わりました。見ると、開場まであとわずか。
Peter Hammill 2004/11/04 (Thu):Harajuku Astro Hall
Peter Hammill: Vox, Piano (1-5,12-16), Guitar (6-11)
Stuart Gordon: Violin (2-16)
1)My Room
まず、一人でステージに登場したピーターはピアノに向かい静かに演奏を始めました。VdGGの「Still Life」(1976)からライブでの定番曲のひとつ。特にオープニングとしてよく演奏されるこの曲を持ってきたのは、これから4回の連続したライブを行うにあたって、落ち着いて公演を行っていくためのピーターの意図的な選択だったのかもしれません。力強い演奏は、ほんの数時間前に気分が悪いと病院に行った人間とは思えませんでした。そして、歌い終わったピーターは、客席に向かって「こうして東京に戻ってくることが出来て大変嬉しい。特に昨年の有名な心臓発作からのカムバックという意味でだが、それとは別に今日、6時間かそこいら前にまた病院に行ってしまったのでなおさら今ここにいるのが嬉しいのだ」というような意味のコメントをしたのですが、歌と比べて小さくごにょごにょした言い回しになってしまったため聞き取りにくかっただろうと思います。
2)Easy to Slip Away
そのコメントの最後に忘れちゃいけない、とばかりにスチュアート・ゴードンをステージに招き入れました。そして二人で始めたこの曲。これもまた近年大いに演奏されていますが、この日の演奏はまるで「気を抜くとすぐに人生から滑り落ちてしまうよ」と自らに戒めているかのようにも聞こえました。アルバム「Chameleon in the Shadow of the Night」(1972) から。
3)Nothing Comes
3曲目に演奏されたこの歌も「なにごともショックとしては訪れない」という歌詞が、今日のピーターの心境を歌っているようで心に強く響きました。静かな名作「Everyone You Hold」(1997)からの選曲です。 今日のピーターはこのような静かな歌でもものすごく力強さを感じさせます。
4)Too Many of My Yesterday
定番曲が続きます。アルバム「And Close As This」(1986) でのピアノ弾き語りよりもこのバイオリンを加えたバージョンの方が今では耳になじんでいます。流れるようなメロディとまったく対照的な叩きつけるようなピアノの弾き方が印象的です。
5)Vision
そして名曲。未来への思いと愛する人への想い。何も言うことはありません。聴く人それぞれの思いがこの歌には反映されることでしょう。「Fool's Mate」(1970)ではヒュー・バントンのピアノをバックに歌っていますが、ライブでも超人気曲。もはや私がいろいろと語る必要がないほど愛されている曲だと思います。バイオリンとのデュオもコンピレーション・アルバム「The Love Songs」で耳にしていますが、ライブでの演奏の方がはるかに出来がいいと思うのは私だけではないでしょう。
6)Comfortable
ギターに移ってせ~の、で始まったように見えたこの曲での激しさは以前見たどのバージョンよりも力強く感じました。本当に圧倒的な歌です。「Patience」(1983) ではKグループの演奏ですが、たとえドラムスやベースがなくともこれだけの力を持っているというのは曲そのものの持つ力が強いからだと思います。ちょっと残念だったのはギターのシールド・ケーブルだかピーターの持ってきたチューナーだかが調子が悪くて、大きな音になると音が飽和してぶつぶつと途切れたことです。この曲の演奏後に少々調整して何とかまともになりました。
7)Shingle Song
打って変わって静かな始まり、たおやかな中にも凛とした歌いっぷりは完全復活と言える素晴らしいものでした。アルバム「Nadir's Big Chance」(1974) ではアップテンポな曲に混じってなかなか目立たない曲でしたが、近年のライブ演奏でこの歌の素晴らしさが再認識されているのは嬉しい限りです。「僕はあなたを心の中から追い出すことなんて出来やしない」というリフレインが印象的な歌です。
8)Last Frame
VdG時代の曲ですが、ソロとしての演奏の方があまりにもマッチしているのでそのことをよく忘れてしまいます。「The Quiet Zone, the Pleasure Dome」(1977) ではグラハム・スミスのバイオリンで聴くことができますが、私はスチュアートの演奏の方が好きです。よりリリカルでドラマチック。終わった後のピーターの満足そうな顔はこの演奏の出来を物語っています。
9)Ophelia
心なしかいつもよりもゆっくりとした歌い方。もともとピーターはほっとくとものすごい速いテンポで演奏しがちな人ですが、今日はベストなテンポ。アルバム「Sitting Targets」(1981) ではどちらかというと無機質に聞こえるような歌い方をわざとしてありますが、この日のようにダイナミック・レンジ一杯の歌い方をされると、こんなにもドラマチックな歌だったのだなぁというのを改めて認識しなおしました。これはライブを実際に見なければ分かりません。
10)Time for a Change
非常にユニークなアルペジオで印象的なこの歌も、今は自分に当てはめることが出来たのではないでしょうか。「pH7」(1979) からのライブでもおなじみの曲。昨年の心臓発作以来自らの死とそれまでとはまた違う意味で向き合ったことによる変化は次のアルバムで一体どのように反映されるのでしょうか。今年がピーターにとっての変わるべき時だったのかもしれません。
11)Patient
昨年はピーター自身が患者になったわけですが、イギリスの医療制度の評判の悪さはいろいろと聞きますが、予約をしてから実際に診察を受けられるまでずいぶんと時間がかかるようです。そういうことを考えながら聞くとまた違った側面が見えてくるかも。アルバム「Patience」(1983) から入魂の一曲。
12)Bubble
「Everyone You Hold」(1997) 出発表されたこの歌はクラシカルなピアノと唱法が苦手というファンも多いようですが、この日の歌い方はむしろロック的。ピアノ版「モダーン」と言ってもいいかもしれません。それほど力強さを感じさせる演奏となりました。
13)A Better Time
そして、個人的にはこの日のハイライトだったこの曲。「I'll never have a better time to be alive than now.」と繰り返し歌われるわけですが、この一瞬を、ライブをピーターと共有できているのだということの幸運を考えたとき、自然と目に涙が浮かんだのでした。「X my Heart」(1996) にはアカペラと楽器演奏付きの二つのバージョンがありますが、なんといってもライブが一番です。
14)Faculty X
名作「pH7」(1979)の白眉とも言うべきこの曲はライブでもハイライトのひとつ。今回も大胆なまでに激しいピアノに絡みつくようなバイオリンというすさまじい演奏によって否が応でも興奮させられます。ほんとに叫びだしたいくらいでした。正直頭の中は真っ白になるほどの衝撃。この曲が歌われている間は何も考えられませんでした。圧倒的です。
15)Stranger Still
そして私の個人的なベスト5に入る「Sitting Targets」(1981) からの名曲です。東京という異郷の地でのストレンジャーはすなわちピーター自身でもあります。再び感動の嵐が私を襲いました。そしてこれで本編は終了。ピーターとスチュアートがステージから下がってもまだ拍手が鳴り止まず、しばらくしてからアンコールを求めるリズムの拍手に変わっていきました。やはり、今夜の演奏が尋常でなかったことを観客すべてが感じ取っていたのだと思います。そして二人が再びステージに姿を現しました。
16)Traintime(アンコール)
このイントロが流れてきて興奮しないわけがありません。スタジオ版「Patience」(1983) での演奏は少々速いテンポでリズムが強調されていると感じていましたが、ライブではむしろ重厚にヘヴィに演奏されるのですが、この日の演奏は類まれなる完成度。完全に圧倒されてしまいました。もはや言葉がありません。曲が終わって二人が引っ込んでしまってもひたすら拍手です。
今回は休憩なしの一気呵成のステージでした。特筆すべきは、明らかにこれまで見たこともないようなテンションと気合の入り方で、凄みのあるどころではない尋常ならざる演奏を行ったことです。観客すべてが圧倒され、拍手もこれまでのどのライブよりも熱かったかもしれません。もちろん観客は、興奮して2度目のアンコールの拍手もしましたが、残念ながら2度目のアンコールはありませんでした。
ライブ終了後、3人は食事へ行きました。今夜は短めに、かつヘルシーに野菜中心の油少な目の中華。ピーターはお酒も一杯だけですぐに水と中国茶(プーアル茶)に切り替えました。1時間ほどでお店を出てホテルへ戻ると、ピーターはさすがに早く休みたかったようで自販機で水を買うと、まだどれにしようか迷っているスチュアートとデヴィッドをおいてさっさと部屋へ戻ろうとしました。慌てて二人が後を追い、3人は一緒にエレベータに乗ったのでした。
こうして日本公演の「出来事に満ちた」第一日目が終わったのでした。
by BLOG Master 宮崎