"CURLY'S AIRSHIPS" (2000) Judge Smith
Disc One (72.49)

1. Voices From A Crystal Set
2. Walking Her Out
3. Curly Takes Us Up
4. Drifting About Like a Bad Smell
5. Curly in the Clouds
6. A Capital Idea
7. A Shrieking of Aluminium
8. Curly on Civvy Street
9. That Imperial Airship Scheme
10. From the Sidelines
11. A Kindly Sort of Cove
12. Curly at Cardington
13. A Creature of Grace
14. A Byronic Sort of Blighter
Disc Two (71.07)
1. Big Chief And Some Minor Bugs
2. The Canadian Run
3. Conan Doyle & the Flying Sieve
4. Horrors At Hendon
5. As Safe As A House
6. A Ship Of Fools
7. The Night Before
8. The Morning After
9. Bedford To Hastings
10. Hastings To Beauvais
11. The Muffled Drum
12. The Final Taboo
1993年以降、ジャッジ・スミスが調査と台本製作、そして音楽化を進めてきた作業、それが「ソング・ストーリ」という形でまとめられたのが本作品「カーリーズ・エアシップ」である。これは1924年から1930年までのある飛行船の設計・製造と飛行に命をかけた男たちの夢と苦労と、1930年に行われた世界最大の飛行船"R.101"によるインドへの飛行での破滅に至るまでの物語である。詳しい話はもちろん、CDに付されている2冊のそれぞれ48ページと44ページにも及ぶ分厚いブックレットに細かく書かれているし、もしくは、
このアルバムの専用ページをジャッジが設置しているのでそちらも参考にして欲しい。
このアルバムは「ソング・ストーリ」だと言ったが、前作「ドーム・オブ・ディスカバリー」までの「音楽劇」的な要素は影を潜め、ひとつの音楽作品として、ある意味。聴き手の集中力を要する緊張感の高いものに仕上がっている。もちろん、ストーリーをたどっていくのだが、それは、ミュージカルやオペラのようなものの音楽ではないし、映画のサントラという感じでもない。まったく違う、音楽そのものだけでストーリーを語るというほかにあまり類を見ないものだと思う。したがって、英語の歌を聴いてすぐに理解できる人と、私たち日本人のような歌詞カードを「読む」ことでしか歌詞のイワンとしているところを読み解くことが出来ない人とでは聞こえ方が違うのかもしれない。一番近い感触を上げるならば、やはりジャッジ・スミスがピーター・ハミルと作った「アッシャー家の崩壊」を思い浮かべることが出来る。音楽的には「アッシャー」はピーターの作曲であるため、まったく異なるものだし、ロック・オペラであると言っているわけだし、ちょっと違うとは思うが、あれが受け付けられないという人にはこちらもつらいのかもしれない。しかし、聞かず嫌いが一番馬鹿な行為なので、興味が沸いたのであればぜひ挑戦してみて欲しい。
このアルバムには多数のゲスト・ミュージシャンが参加しているわけだが、Performers としてクレジットされているのは以下のメンバーだ。また、ミックスダウンとマスタリングはDavid Lordがバースのテッラ・インコグニタで行っている。
JUDGE SMITH :Vocals and Bass & Drum Tracks
JOHN ELLIS :Electric Guitars & Ebow, Mandolin
(The Vibrators, The Stranglers)
HUGH BANTON :Organs & Piano
DAVID SHAW-PARKER :Acoustic Guitar, Banjo, Vocals & Actor
(「Lemming Chronicle」著者)
ARTHUR BROWN :Vocals
(The Crazy World of AB, Kingdom Come)
PETE BROWN :Percussion & Vocals
(Creamの作詞,Battered Ornaments, Piblokito)
PETER HAMMILL :Vocals
PAUL ROBERTS :Vocals(The Stranglers)
PAUL THOMPSON :Vocals
(Choir of Christ Church College, Oxford)
DAVID JACKSON :Saxophones & Whistle
JOE HINCHLIFF :Accordion(Tragic Roudabout)
RIKKI PATTEN :Supplementary Guitar
(The Crazy World Of AB, People Like Us, The Vibranaughts)
IAN FORDHAM :Bass Guitar & Double Bass
(The Imperial Storm Band)
RENE VAN COMMENEE :Tabla, Ghatam & Tambura
(The Astor Ensemble)
TAMMO HEIKENS :Sitar & Tambura
(The Raj Mohan Ensemble)
NICK LUCAS :Vocals & Actor
GWENDOLYN GRAY :Actor
MIKE BELL :Actor
And THE MYSTERY MARCHING BAND
最後のマーチング・バンドのためのアレンジには再びマーチン・ブランドの名前が挙げられていることも記しておきたい。面白いのは、ジャッジが18歳のときからのアイドルだと言うアーサー・ブラウンが参加していることだろうか。また、ガイ・エヴァンス以外のVdGGのメンバーが顔をそろえているのもうれしい。得にヒュー・バントンはアルバム全体を通じての貢献度が高く、デヴィッド・ジャクソンとジョン・エリスとジャッジ・スミスの4人での演奏は、もしかしたらありえたかもしれないもうひとつのVdGGを想像させるのに十分すぎる演奏を聞かせてくれるのだ。そう、もしピーターではなくジャッジがバンドに残っていたとしたら…。そんなことを2004年の来日時にすこしだけデヴィッドに話しをした。ありえたかもしれないもうひとつのVdGG(Alternative VdGG)というものとして。そうしたら彼は驚いた顔をして、ちょっとだけ想像を巡らしていたように思えた。
ジャッジの持っている音楽的才能に対して、私は正直このアルバムを聴くまではあまり認識していなかった。このアルバム以前に持っていたのが「デモクレイジー」だけだったということもあり、それは音質の悪いものであったことも災いして、ピーターやデヴィッドの参加した曲だけを聴くという悪い聴き方しかしていなかったのだ。このアルバムにしてもそうだった。ピーターが歌っている曲をまず聴いた。しかる後、ずいぶんと経ってからやっと全体を通して聴いたのだ。…そして、反省した。
ジャッジ・スミスというアーティストの素晴らしさは言葉ではなかなか表現しづらいが、奥の深さという点ではピーターに負けていない。そのひょうきんな外観と音楽のユーモラスさがどうしても最初は目を取られるし、耳を奪われがちだが、その向こう側にある音楽の素晴らしさまで辿り着くことが出来たなら、そこから離れることはとても難しい。
音楽はもちろんだが、お芝居(演劇)や映画、あるいは小説といったものに興味のある人は聴いてみるといいだろう。あなたと合う合わないは時間をかけて判断して欲しい。2年でも5年でも。それだけの価値は絶対にあるはずだ。
by BLOG Master 宮崎