"Batteries Included" <David Jackson> |
1. Turn Into The Wind
2. The Fire People
3. Gula Gula
4. Rangoon Pilot
5. Riff Raff Element
6. Polar Bear
7. Tonewall Stands
8. Batteries Included
9. Lands End We Go Now
10. Spooks in the Night
11. Traintime
12. The Clot Thicke
新作「A2Z」と前後して発表された1992年と1993年のライブ。基本的にはDJのTonewallパフォーマンスだが、オランダ人パーカッショニストであるルネ・ヴァン・カミネー(Rene van Comminnee)とのデュオであるところがポイントである。このことが打ち込み主体のバッキングに生々しい偶発性を秘めたわくわくするような感じを与えている。
DJのHPに掲載されている二人の短いコメントを紹介しておこう。
「CDには1992年と1993年に行ったデュオ・コンサートからのライブ録音が収められている。ピーター・ハミルの『トレインタイム』とVdGGの『ザ・クローズ・シックンズ』のインスト・バージョンを含む12のユニークな楽曲群だ。」(ルネ)。
「『バッテリーズ・インクルーディド』-新たにリリースされた、1992/1993年にオランダのユトレヒトで行われたライブCDである。これは輝かしいパーカッショニスト、ルネ・ヴァン・カミネーと一緒に行ったものだ。私はこのプロジェクトをとても気に入っている。このCDは、いつものDJ直販と、ルネのHPから購入することが出来る。」
1曲目「Turn Into The Wind」は、もちろん「Tonewall Stands」からのライブ定番曲である。船乗り達の使う言いまわしで、死者に対する哀悼の意を表した言葉をタイトルに持つこの曲はいつ聴いても心にしみる。つづく「The Fire People」はギターのための練習曲をベースにしてDJが書いた曲で、スタジオアルバムには含まれていない。フラメンコ風のリズムとバックのギターのフレーズが非常に心地よい雰囲気を作り出し、そこにDJの演奏が乗っかるとこれはもうぜひスタジオ録音も発表して欲しいと思うほど素晴らしい。3曲目「Gula Gula」では緩やかなリズムでのR&Bの風味を少し加えたトラッド風の曲。フルートがメインである。再び2枚目から「Rangoon Pilot」のノリのよい軽快な演奏が続く。続いては多少大陸風のカーニヴァル音楽的な「Riff Raff Element」だが、手回しオルガン風のバッキングがいい味を出している。そして、1枚目「LH3」で発表され2枚目で再アレンジされて発表しなおされた「Polar Bear」が演奏される。この曲もDJの強い思い入れのある曲だが、ここでは情感たっぷりに演奏されている。
7曲目は、極めつけのDJのテーマ曲というべき「Tonewall Stands」すでに「Beams & Bells」やライブDVDでライブ演奏を耳にしているが本ライブでの演奏はそのどちらをも上回る出来ではないだろうか。陽気なR&Bである本曲もまた1枚目で発表され2枚目で再アレンジされている。次はおそらくインプロではないかと思われる「Batteries Included」。『バッテリー内蔵』ということで二人の情熱的なミュージシャンによる尽きることのないエネルギーを思う存分放出しているような演奏だ。このエネルギーを秘めた爆発の予感は次に演奏される「Lands End We Go Now」で静かなクライマックスを感動的に演出している。もちろんVdGGの名作「ポウン・ハーツ(Pawn Hearts)」の「A Plague of Lighthouse Keepers」の最終パートであるが、もともとPHのボーカルが少ない部分だけにインストでの演奏も違和感がない。むしろ、PHのボーカルをその前に聞いたかのように錯覚してしまい、一部分の抜粋だということを忘れさせてくれる。一旦、オリジナル曲に戻り「Spooks in the Night」が演奏される。おそらくはここまでがライブでは本編だったのではないだろうか。CDでは特にそれを示唆するような編集はされておらず、アンコールを求める拍手も入ってはいないのだが、次に収録されているのがPHの「Traintime」なのだから、この想像はあながち間違ってはいないだろうと思っている。もちろんこの曲はスタジオ版はKグループでの演奏で、ゲストとしてDJが参加している。よってDJはこの曲のことをもちろん知り尽くしており、DJが作ったバッキング・トラックの打ち込みも曲を熟知した者ならではの出来になっている。そしてボーカルのメロディ・ラインをなぞるように吹き鳴らされるサックスも力強く、歌心たっぷりだ。この曲だけでもこのCDは聴く価値があるかもしれない。しかし、実際にはさらにお楽しみが残されていた。VdGGのやはり「ポウン・ハーツ」の「A Plague of...」から違うパートである「The Clot Thicke」である。これは、この曲全体の中では最も激しいインスト・パートを含む中間部であるが、ここもオリジナルではPHの絶叫するような歌が重なってはいるが、もちろんインストが強烈な部分なので違和感はない。まぁ中間部だけに曲の終わりが「続きがあるはず」という感じを聞き手に与えてしまうのは仕方がないところだが、それを考えても非常に楽しめる演奏である。
10年以上たってからこのライブを発表したことについてのDJのコメントはないのだが、この新作をアナウンスしたMLにおいて「演奏は10年たった後でもいまだ新鮮だ!(The playing is still fresh after 10 years!)」と述べている。実際に現物を聴いてみて、その言葉を納得しないファンはいないだろう。これは製作・販売の主体がDJではなくルネであるが、ぜひ入手して聞くべきアルバムだと言っておこう。DJのサービス精神が縦横に発揮されたライブをぜひ体験して欲しい。
by BLOG Master 宮崎