6th May 2005 Double Live shows CJS/VdGG |
この日、ランチタイム・ギグと称して行われたクリス・ジャッジ・スミスのショーではジョン・エリス(フューリー)とデヴィッド・ジャクソンとのライブ・アルバムで名前を知られるようになったオランダのパーカッション奏者ルネ・ヴァン・コミネー、それにキーボード奏者、マイケル・ウォード・バーグマンの3人がバックを勤めていた。ユニークでシニカルで、ポップでありながら一筋縄では絶対にいかない癖の強い歌を聴かせてくれた。1時間ちょっとの短いギグではあったがかなり印象的だった。この人がピーターと最初にVdGGを作ったのだと思うと不思議な気がした。ピーターに提供した楽曲から「Time For A Change」と「Four Pails」が歌われたが、それらはまったく異なる印象であった。会場では新作の『フル・イングリッシュ』を始め、フューリーのCDなども売られていた。
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"Live at Royal Festival Hall 6th May 2005"
コンサート会場であるロイヤル・フェスティヴァル・ホールは世界中から集まったファンによって異様な熱気に包まれていた。ほとんどが私よりも年長の人たちである。私の隣には先月の日本公演で鮮烈な演奏を聞かせてくれたデヴィッド・クロスが座っている。彼はこれまでピーター・ハミルとはアルバム『エグザイルス』で録音をしたことはあるものの、VdGGは聴いたことがないという。今回が初めてのVdGG体験という意味では、リアルタイムで聴くことのできなかった私と同じである。がしかし、アルバムを聞き込んだ私とそれも聴いたことのないクロス氏とではきっと感想は異なっているに違いない。そんなことを思いつつ開演を待つ。そして、ステージに4人が姿を見せると同時に会場からは大音量の拍手と歓声。いよいよスタートだ。
1. The Undercover Man (Godbluff)
2. Scorched Earth (Godbluff)
3. Refugees (The Least We Can Do Is Wave To Each Other)
4. Every Bloody Emperor (Present)
5. Lemmings (Pawn Hearts)
6. (In The) Black Room (Time Vaults/The Box)
7. Nutter Alert (Present)
8. Darkness (The Least We Can Do Is Wave To Each Other)
9. Masks (World Record)
10. Childlike Faith in the Childhood's End (Still Life)
11. The Sleepwalkers (Godbluff)
12. Man-Erg (Pawn Hearts)
--encore--
13. Killer (H to He:Who Am The Only One)
14. Wondering (World Record)
ファンの誰もが1曲目に何がくるのかを予想しあっていたが、ピーターはステージ中央に何も持たずにスタンバイした。そのときデヴィッドがフルートを吹き始めた。私の期待していた曲「アンダーカバーマン」で始めてくれたのだった。つい先月レビューを書くためにもう一度見直したDVDの映像が完全に頭から吹き飛んだ。これが本物なのだ、生なのだ、と。正直緊張で両手をずっと握り締めていた。曲の終わりはアルバムと同じにそのまま次の曲「焦土」へとつなげて演奏された。最初からメドレーだ。デヴィッドのダブルホーンが冴え渡る。ヒューのオルガンがホールの空気を大きく震わせている。ガイのドラムスが鋭く曲を引っ張っていく。そしてもちろん、ピーターの歌だ。ステージ上の配置はDVDで見たのと同じに左にヒュー。ガイのドラム・キット、ギター・スタンド、デヴィッド、そしてピーター用のEピアノ。それらに囲まれた中央部分にはマイク・スタンドがある。今回のギターは完全にエレクトリックのみだ。ステージは広い。セッティングは多少中央に寄せてある。
3曲目は何がくるだろうか、という期待にバンドはデヴィッドとヒューのユニゾンで始まるこの曲「レフュジーズ」で応えてくれた。ひときわ大きな歓声が巻き起こる。ソロ・ライブで何度も感動したこの曲も、まったく違って聞こえる。これがVdGGなのだ。あまりの感動に身動き一つ出来ない。音楽が私の体を突き抜けていく。曲が終わり、大きな拍手の中でピーターがゆっくりと引き始めたのは新作の1曲目「エヴリ・ブラディ・エンペラー」であった。一気に静まり返る会場にこの歌の本当の姿が示されている。広い会場のたくさんのファンの上に降りかかり、しみこんでいく様が目に見えているかのようにピーターは会場を見渡した。ピーターが次の曲の準備をするためにピアノを離れた途端に他の3人が好き勝手に演奏を始めた。ピンときた。そうだこの曲だ。思ったとおりギターに持ち替えたピーターがイントロのフレーズを弾き始めると会場からは大きな拍手が沸き起こった。嵐のようなこの「レミングス」でもピーターの存在感は圧倒的だ。もちろんその嵐を作り出しているヒュー、デヴィッド、ガイもまた巨大な音の渦を自在に操り、時にうねり、時に襲い掛かり、包み込み、引きずり込む。
「次はバンドで録音はしなかったがプレ『ゴッドブラフ』期のバンドの曲だ」と紹介したのが、そう「(イン・ザ)ブラック・ルーム」だ。やはり相当気に入っているのだろう。複雑で恐ろしくて、切なくて、ストイックで、混沌としていて、秩序のある曲だ。よくもこんな曲が演奏できるものだと唖然としてしまうほど彼らはやすやすと演奏しているように見える。「難しいのが好きだ」と言ったピーターの言葉はメンバー全員に当てはまるのではないだろうか。特にヒューのなんと楽しそうなことか。ひときわ大きな拍手によってメンバーたちも満足げだ。その拍手を破るかのようにピーターが叫び新作で最も人気の高い曲「ナッター・アラート」が始まった。こうしてライブで聴くと他の古い曲とはある意味違和感がなく、ある意味新鮮な、不思議な曲に聞こえる。やはりこれはVdGGの曲なのだと思い知らされる。決してソロ曲のバンド・バージョンではない。もちろん、28年の間に増した深みがある分奥行きが広く、古い曲に比べると、その奥に何があるのだろうかと恐れすら抱くほどの空間的な広がりを感じさせるのだ。
拍手の奥から聞こえてきたのはペダル・ベースによる低音のフレーズ。そうだこれだ。「ダークネス」だ! アルバムより幾分ゆっくりとしたテンポで、その分威圧的とすら言えるほどの圧倒的な重圧感で迫ってくる。21歳かそこいらで録音した曲を57歳になってもまだこれだけの鮮烈なインパクトをもって演奏できることに驚きを禁じえない。いやむしろ今の方がより強烈なアピールを感じられるのはなぜだろう。現役の頃でさえ今日のこの演奏には及ばなかったのではないかとすら思える。会場は狂喜乱舞、日本では考えられないほどの盛り上がりを見せている。そして、ちょっと間を空けて始まったのはゆったりとしたサックスが印象的なこの「マスクス」だ。歪ませたギターをゆっくりと鳴らしながら歌うピーターも、ピックのワンストロークごとに気合をこめているのがよく分かる。中間部から徐々に激しくなっていく演奏が再び歌に戻るとき、やはりこの延長線上のはるか先に今回の新作があったのだと気づかされる。
続いてこれもまた人気が高い大曲「チャイルドライク・フェイス・イン・ザ・チルドフッズ・エンド」がもってこられた。まさかこの曲をライブで聴けるとは思ってもいなかっただけに興奮は頂点に達する。フルートにピーターの歌が重なるイントロは本当に美しい。軽快なテンポで鋭く切り込むリズム、美しいメロディ、VdGGの全てがそろっている。なんという感動を与えてくれるのだろうか。涙すら浮かんでくる。そして拍手を破るかのように再び『ゴッドブラフ』からラスト・ナンバー「スリープウォーカーズ」の演奏が始まった。この緊張感はたまらない。デヴィッドのソプラノ・サックスがヒューのオルガンと時にユニゾンで、時に別々に印象的なアルペジオを演奏していく。途中のチャチャのパートも楽しげに軽やかに、そして恐ろしく、威圧的に演奏されていく。名曲だ。大きな拍手が巻き起こる。もはや何が演奏されてもかまわない。ピーターによる謝辞が述べられ、次が最後の曲と言って弾き始めたのは『ポウン・ハーツ』からのこの曲「マン・アーグ」だ。整然とした歌の部分と混沌とした中間部の対比が激しくも印象的な曲である。会場はまたも圧倒される。
アンコールの拍手は凄まじかった。メンバーが出てきてもしばらく鳴り止まず、ファンの興奮が伝わってくる。バンドは無言で演奏を始めた。だれも予想しなかったのではないだろうか。あるいは期待していなかったのか。前期のライブでの最大の人気曲であり、あまりにもファンの要求が強かったために演奏したくないとバンドが嫌うほどにまでなっていたこの曲「キラー」である。そしてピーターがこれで本当に最後の曲だと念を押し、もう一曲だけやるといい、再び謝辞を述べた。そしてヒューとデヴィッドによるユニゾンのイントロ「ワンだリング」だ。厳粛に歌い上げるピーター。そしてスタジオ版ではフェードアウトだったエンディングは…。
こうして2時間10分ほどに及んだライブが終了した。涙が出るほど感動的であった。もはや言葉など何の役にも立たない。この感動を言い表すことなど出来はしないのだ。こんなくだらない文章を読むよりも可能な限り実際のライブを見て欲しい。今回のライブは記録することになっていたと思うが、カメラなどがどこに配置されていたのか定かではない。朝の段階で会場裏の搬入口にはビデオ・スタッフの機材車らしきものが駐車してあったのでおそらくは収録はしたのであろう。会場ではファンがフラッシュをたきまくりながら写真を撮っていた。おそらく世界中の主要なファンサイトにはステージの写真がすぐにでもアップされることだろう。あまりにも劇的な復活第一弾のライブであったのは間違いない。記録されリリースされるべきものだ。
冷静に考えてみれば、決めのタイミングを合わせ損ねたところがあったり、ピーターも後半ちょっと音程が怪しいところがあったり、デヴィッドがミスをしたところがあったりと、けちをつけようと思えばいくらでも付けられるのかもしれない。しかし、ステージで真剣にすごい迫力で歌い、演奏している姿を見たならば、そんなことは本質的なものではないということに気がつくだろう。ソロ・コンサートでは見たことがないほどの叫びまくるピーター。攻撃的なデヴィッド。思った以上にテクニカルなガイ、そして嬉々としてオルガンを弾き倒すヒュー。むちゃくちゃだ、と思った。そして、そのむちゃくちゃさこそがVdGGなのであると。
by BLOG Master 宮崎
1年半前に来た時(Chris&CarterとCurrent93)と会場入口付近が変わっていて、 少し迷ってしまった。 終演後に落ち合う予定のTともバッタリ。なんと当日券が若干出ていたとのこと。 席は2階の中ほど、ちょうど中野サンプラザの2階席のイメージだろうか。 20分ほど押して4人が登場。今回のメンバーをおさらいしておくと、 Peter Hammill(vo,g,p), David Jackson(sax,fl), Hugh Banton(organ), Guy Evans(dr)の4人。...... more
行けなかったのでうらやましいです。
デヴィッド・クロスさんは終演後どう言っておられましたでしょうか?
是非また見たいものです。
こちらのレビューを読んでまた感動がよみがえっています。
ビデオクルーは入っていたんですね。コンサートの最中は全く見当たりませんでした。
この先のツアーもいかれるのでしょうか?
これからのツアーにはとりあえず見に行く予定はありません。というか予算がありません。残念です。まぁ知り合いのスイス人がイタリア2公演を見に行くというので感想を期待しています。