"Vital" <Van der Graaf> |

2. Still Life
3. Last Frame
4. Mirror Images
5. Medley
(Lighthouse-keepers/Sleepwalkers)
6. Pioneers over c
7. Sci-Finance
8. Door
9. Urban/Killer/Urban
10. Nadir's Big Chance
*旧日本盤2枚組CD= Disc One:1-5, Disc Two: 6-10
公式なレギュラー・アルバムとしてはラスト・アルバムであり、同時にバンド史上初のライブ・アルバムでもある本アルバムは、LP2枚組で発表されたのだが、CD化にともない「ザ・マージン」と同じように曲をいくつか削除して1枚にまとめられた。その曲目は下記のようになっている。落とされたのは「Sci-Finance」と「Nadir's Big Chance」であった。
1. Ship of Fools *現行Virgin盤1枚ものCD
2. Still Life
3. Last Frame
4. Mirror Images
5. Medley: Plague of Lighthouse Keeper's/Sleepwalkers
6. Pioneers over C.
7. Door
8. Urban/Killer/Urban
見て分かるようにスタジオ・アルバムでは未発表であった曲が山ほど入っている。「Ship of Fools」,「Sci-Finance」,「Door」,「Urban」,「Mirror Images」など、正直言って唖然とするほどの「聴いたことないよぉ~!」状態であった。これらはおそらく次のアルバム用に書かれたもので、いつものようにライブで先行して磨きをかけられていたに違いない。今となってみれば、これらのうち「Sci-Finance」と「Mirror Images」は後のピーターのソロ・アルバムで取り上げられているのを知っているので尚更ソロ曲のイメージが強いが、この時点ではあくまでも未発表のバンド楽曲だったのである。また、Kグループは「Door」をライブでよく演奏していたらしい。
本アルバムで聴ける音は、長いことオルガンとサックスの絡みこそがVdGGの器楽面での魅力の中心であったことに慣れた耳には、前作「静粛/歓喜(The Quiet Zone/The Pleasure Dome)」以上に違和感ありありの音作りと相乗して、実にショッキング、かつ新鮮に聞こえる。これは一体何なんだ!と叫びだしたくなるほどの衝撃が存在している。これが唯一のライブ・アルバムだということを考えると、異常とも思える選択だと言える。このアルバムはVdGの次のスタジオ・アルバムを出すための資金を稼ぎ出すための助けとなるべく製作されたものだ。であるならなおさら、同じライブでも、過去のバンドのライブからのセレクションを出すことも出来たはずだ、そういったものならば古くからのファンを確実に捉えることができるし、セールスだけを考えたならばそちらの方が絶対よかったはずだ。しかし、バンドはそうしなかった。バンドの最新モードを現すことを選択したのである。
よく「破綻したアンサンブル」と表現されるこのアルバムでのバンドの音は、しょっぱなのギターの音からして荒々しく、激しい。その一方で二人の弦楽器奏者が織り成すクラシカルで繊細なフレーズが耳を打つのも事実であり、そこに歪みまくったベースとギターがこれでもかとアンサンブルを破壊しまくっている。それでもなお楽曲としてのまとまりを見せているのはガイの叩き出すドラムスとピーターのボーカルのおかげかもしれない。これは、並みのライブではない。パンク・バンドのライブなど学芸会かと思えるほどの破壊力が、ジョニー・ロットン(ジョン・ライドン)が目指して得られなかった混沌と爆発するエナジーが、ここにはある。それはまるで宇宙の誕生の瞬間の荒れ狂う中心、そう「核融合/天地創造(H to He)」でその片鱗を表現しようとしていた何もかもを生み出す恐るべき混沌であるかのようだ。
まず驚かされることは、ピアノ曲の名曲として認知されている「Still Life」。ここではなんとピアノレスで演奏されているのだ。暴れまくるEギターでの演奏はここ以外では絶対に聴けないものだ。恐るべきパワーがこの曲を変容せしめている。こんなにもヘヴィで荒々しい曲だったのか。同様に「Last Frame」「Mirror Images」でも、これぞバンドの醍醐味とでも言うべきヘヴィでラウドな演奏が繰り広げられる。ソロ・ライブで聴ける曲と同じものだとは到底思えないし、それ以上に「Last Frame」での演奏はスタジオ・テイクよりもはるかにこのバンドの本質的な演奏だと思う。攻撃的で、突き放していながらも奥に秘めた繊細さをルーズで荒っぽい演奏の中に放り込み、まさに混沌とした調和と破壊とがともにある、とでも言わなければどうしようもない音楽なのだ。これらを聴くと、このバンドがVdGG/VdG/PH soloの楽曲を区別なく演奏したという事実は、初めてその事実を知ったときには「えっ?」と思ったものだが、楽曲はたとえそれがどんな出自のものであってもVdGの音になってしまうということ、VdGの音は絶対にVdGGにもPHソロにもなりえないほどオリジナリティが強いものであるということが理解できるだろう。
先にニックの発言として「この4人編成はとてもパワフルで最先端のところにいる」というのが「ザ・ボックス」に載っているが、当時のインタビューでピーターはこのバンドを称して「ヘヴィ・メタリック」なバンドだと言っている。一般的な音楽ジャンルとしてのヘヴィ・メタルとはまったく違う種類ではあるが、そういう以外に表現のしようのない音楽がここにあるということだろう。たしかに歪みまくってはいるものの、ギターとベースはいわゆるHR/HM系の音とは完全にそのベクトルが異なっている。そこに絡むバイオリンとチェロもまた繊細かつラウド。いやこれ以上言葉を費やしてもこの音は伝えきれないだろう。これはもう聴いてみるしかない。しかし、「ワールド・レコード」までの作品とは音的にはまったくの別物だし、「静粛/歓喜」のもつ繊細でクラシカルなイメージともまったく違っていることだけは予め覚悟しておいて欲しい。
古い楽曲である「Medley: Plague of Lighthouse Keeper's/Sleepwakers」や「Pioneers over C.」はオルガンなしということで興味があるだろう。まさしくアンサンブル的にはすかすかの楽器構成だと言わねばならないが、じゃだめだろうと思う人は彼らを見くびりすぎだ。やはりここにはVdGGの持っていた世界がしっかりと継承されている。しかもVdGとしてのオリジナリティを十分に加えた上でだ。そういう意味ではネイディア的な「Urban」と「Killer」の変則メドレーもまた聴き所のひとつだろう。そしてアルバム・ラストを締めくくるのはバンド復活の狼煙ともなった『ネイディア』からタイトル曲だ。現在の1枚ものでは削除されているが、本来、バンド復活を象徴するアルバムからのタイトル曲がバンドの最後を締めくくるという非常に象徴的な楽曲である。もちろん、バンドはこのライブ・アルバムを次のスタジオ・アルバム製作のための資金調達のために出したという背景を考えれば、この曲にそこまでの意味を持たせたはずはないのだが、結果としてバンドとしての最終作品の最終楽曲というポジションを与えられてしまったのは偶然としか言いようがない。
LPではA面を除いた3面に渡ってデヴィッド・ジャクソンがゲスト参加した形になっている。A面に敢えてDJ抜きの音源を配したことは、実際のライブの進行がそうだったのかもしれないが、バンドが5人のメンバーであっても前向きであったことを象徴するものであり、ゲストとしてのDJの参加はある意味ファン・サービスだったのだろう。実際のツアーではDJが参加したものはほとんどないからだ。アルバムはロンドンのマーキー・クラブで1978年1月16日に録音されている。実際には15日にも録音が行われたが、アルバムになったのは16日の分だけであった。当時すでに長距離トラックの運転手として生計を立てていたDJに割り当てられたマイクはたった一本だったようだ。それまでは、ライブにおいて通常4本-生音にステレオ(2本)、エフェクト音用に2本-のマイクを使用してきたDJにとっては決して満足の行くサウンド・クオリティではなかったようだ。
プロデュースはVdGG/VdGの両方を通じて初めてガイ・エヴァンス名義になっている。これはピーター・ハミル名義であった前作とは明らかに異なる意図があったのだということの裏づけのようにも思える。エンジニアにはもはやパット・モランの名前はなく、前作で登場したデイブ・アンダーソン等の二人が担当している。そのこともまた、このアルバムの生々しい音作りに貢献しているのかもしれない。オーバー・ダビングは、もちろん、一切行われていない。
今年ヴァージンからのリマスターが行われるが、このアルバムは一体どういう形で再発されるのか気になっている。「ポウン・ハーツ」はそもそもの狙いだった2枚組として出されると言われているが、こいつは元の全楽曲を2枚組で出してくれるのだろうか。個人的には「ザ・マージン」が未発表音源を加えた形でオリジナル2枚組LPの楽曲を全て網羅して「ザ・マージン・プラス」として出たように、「ヴァイタル・プラス」みたいな形で出してくれることを希望している。リマスターではいくつかの未発表曲が加わるだろうと予告されていたが、はたしてこのライブ・アルバムにもそれは適用されているのだろうか。詳細はまだ発表されていない。極々僅かな不安と、大いなる期待がともにある。
このように、全ての作品の中でも突出して異色な作品となった本アルバムは、それでももしかしたら最高のアルバムだと言えるのかもしれない。なぜなら「in your face」side のVdGはとてつもなく魅力的であるからだ。この嵐のようなライブを聴けば、あなたは全作品中最大のカタルシスを得ることが出来るだろう。それはKグループが後に、よりストレートな形で引き継ぐことになるものだとも言える。誤解して欲しくないのだが、VdGはKグループのようなビート・グループでは断じてない。これはVan der Graafなのである。創造と破壊の神、神威(Godbluff)な音楽。それは今もピーターの書く楽曲に存在している。
そして今年完璧な形でクラシック・ラインアップとして復活する。アルバムは4月25日発売。すでにソファをはじめアマゾンなどでも予約受付中だ。そして5月6日のロンドンで復活第一弾となるライブが行われる。一体どんな音楽が飛び出してくることだろう。新しい楽曲と同じくらい古い楽曲も演奏するという予告どおりなら、ファンにはまさに狂喜乱舞、会場は興奮などと言う生易しいものではない雰囲気になるだろう。その前に、まだ「ザ・ボックス」と「アン・イントロダクション」を見ていこう。本当の意味での初心者向けの後者を紹介しておかなければ意味がない。そしてコアなファン向けの前者も。
by BLOG Master 宮崎