"Still Life" <Van der Graaf Generator> |
1. Pilgrims
2. Still Life
3. La Rossa
4. My Room
5. Childlike Faith in Childhood's End
たった半年の間隔しかあけずに発表された本作もまた「最高傑作」と呼ぶファンが多いことで知られている。「Godbluff」と評価が分かれるのは、前作がもつあまりにもソリッドな攻撃性と極端に対照的な柔らかな叙情性とでも言うべきもの荷寄るところが大きいと思われる。つまり感情移入しやすい作品なのだ。それは現在のピーターのライブでもタイトル曲が超人気曲のひとつであることや、来日時のファン・パーティーに「赤いドレスの女」つまり「ラ・ロッサ」という女性を象徴的に模する女性ファンが必ず毎回複数名出席していることを考えても分かるだろう。また収められた5曲全てが全て素晴らしい楽曲であるのも間違いないことだ。俗に言う後期三部作の、ある意味中心的な作品である。
では、前作との一番の違いは何か、と言われれば、私は歌メロのメロディアスさにあると答えるだろう。前作での吐き出すような、叩きつけるような激しさは少しばかり影を潜め、代わりになんともたまらない流麗でありながら力強いメロディが数多く登場するのである。それらはロマンティックな面も多分に含んでおり、かつ単純なセンチメントに陥ることのない厳しさを同時に併せ持つという奇跡のようなメロディ・ラインなのである。
「Pilgrims」:思いもかけず柔らかなオルガンから導かれるメロディが前作との違いを際立たせる。タイトルは「巡礼」あるいは「巡礼者たち」というもので、キリスト教の用語から取られている。非キリスト教徒である私たちがどこまでこの言葉のイメージを作り手の意図に沿った形で思い描けるかどうかは疑問だが、そこは聴き手の自由を主張して個々人がそれぞれ好き勝手なイメージを抱くのが正しい聴き方だろう。後半に進むにしたがって、やさしさはそのままに力強さが加わっていく。1曲目からこんなにドラマチックでいいのだろうかと思うほどに。この印象がこのアルバムを象徴している。実はこの曲もまた「Godbluff」レコーディング・セッションの際に録音されたものである。
「Still Life」:あまりにも素晴らしい日本でのソロ・パフォーマンスでこの曲を聴いてきたせいで、オリジナルがどうであったかを時々忘れてしまうことがある。しかし、ここで聴くことが出来る演奏は、ソロでしか知らない人にとっても想像をはるかに超える激しくかつ素晴らしいものである。ソロ・ライブとはまったく違う別の曲であるかのような印象だが、オルガンを中心にした前半から全員で迎えるドラマチックな中間部、そしてあの最後のクライマックスまで、ソロとはまったく異なる感動がここにはある。名曲。
「La Rossa」:再び「Godbluff」レコーディング・セッションで録音された曲。実際に聴いてもらえばわかるようにとてもメロディアスなのである。そのメロディアスさは「Godbluff」の4曲とは明らかに違っており、これを加えた5曲に編集しなおしてみてもこの曲だけが浮いてしまう。曲順のどこに入れてもだ。しかし、ここで聴けるメロディアスさはこのアルバムの中ではもっともストイックでシャープなものである。このアルバム中最も「Godbluff」的な楽曲であるのは疑いようがない。しかし、そのことがこのアルバムをぴしゃりと引き締めることに多大に貢献しているのではないだろうか。超人気曲のひとつでもある。
「My Room」:過去の日本公演でも何回か演奏されているが、このオリジナルは「Arrow」と同様に基本的にオルガンレスでありピアノにベース、サックス、ドラムスというかなりシンプルな音構成でできている。そのためヒューの弾く割とゴリゴリとしたベースがたっぷりと堪能できる。ラストのリフレインは何度も口ずさみたくなるほど切なく、メロディアスだ。アルバム中ではちょっと異色の曲であり、だからこそ人気も高いのかもしれない。
「Childlike Faith in Childhood's End」:そして大作。フルートを軸としたイントロは前期の作品を想起させなくもないが、ピーターの弾くEギターとサックスの絡み合うリフや燃え上がっては消える一瞬の炎のようなオルガンとサックスのリフの絡み合いがとても印象的に使われている。思わず踊りだしたくなるような場面もあり、この曲は確かに次作「World Record」へとつながっていくものなのだと、後知恵で思ってしまうが、そんなこと抜きにすばらしい楽曲であることは間違いない。最後の一瞬まで気が抜けず、かつあまりにも感動的な余韻を残してこのアルバムは終わるのだ。
前作「Godbluff」は4曲で約38分だったが、本作は5曲で約54分。やはり「Pilgrims」(約7分)と「La Rossa」(約10分)をこちらに入れたのは意図的であったとしか考えられない。しかしながら、一方で、他の3曲についてもそれらが作詞作曲されたのはほとんど同時期であり、「Godbluff」ツアーですでに何度も演奏されている。したがって、これらはやはり分けて考えるべきものではなく、同一の時期の一群の作品であると考えた方がよい。
あえて、言うなら、前作がリラックスした形で、ストレートに、あるいはラフに作られたものだとするならば、こちらはより練りこんだ形で製作されたものだと言えるかもしれない。そちらがいいとかではなく、歌詞的な成長の度合いも含めて、この半年の違いは、1974年10月から1976年1月までの2年間の凝縮された形の二つの面であると。
この二つの面の持つ異なる性格のおかげでこれら2枚のアルバムはそれぞれに不動の「名作」という地位を獲得することになったのも間違いないことだろう。そしてこのアルバムが発売された1976年4月の1ヵ月後にはもう「World Record」の録音が行われるのである。
By BLOG MAster 宮崎