"Sonix" <Peter Hammill> |
1. Emmene-moi bare theme
2. A Walk In The Dark
3. In the Polish House
4. Dark Matter
5. Hospital Silence
6. Four to the Floor
7. Exercise for Louis
8. Labyrinthine Dreams
9. Emmene-moi full theme
『Loops & Reels』に連なる作品として紹介されている(ほぼ)インストゥルメンタル・アルバム。ただし、『Loops & Reels』がダンスのための音楽やWOMAD協賛曲とはいえ、かなり実験的な要素が前面に出ていたのに対して、このアルバムは同じようにダンスや映画のための音楽主体でありながらも「実験的」というよりはむしろ「瞑想的」である。この作品に対してPHは1996年9月11日付のソファ・サウンド・ニューズレターの中で簡単にこう書いている。
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「これは私の新しい/古い作品だ。まったくもって、歌ものの世界ではないのだけれど;CDの大部分は映画とダンス音楽によって占められている。覚えているかもしれないが、『Emmene-moi』という映画のため、しばらく前に私は曲を書き録音を行った;この年、私はまたルイ・ブルーニとラファエラ・ロッセリーニから委託されたダンスのためにしばらく作業を行ったのだ;この作品の最初の公演はカタニーナ・フェスティヴァルでこの夏に行われた。基本的にはピアノをベースとしたもので、もしかすると思ったよりも異質な性質を持っているかもしれない。それらの元々のアイディアは私が生で弾き、歌うというものだった;様々な理由のためにこれが完全にきちがいじみたものだと分かったが、プレイヤー・ピアノ(昔の機械仕掛けの児童演奏ピアノ装置)の、現代的な、MIDI、バージョンが、テープによるイントロの後で人生の中心舞台へと飛び込んできたという自負心をもって演奏された。後に私の歌も加わった。それもまたテープによるものだった。これが、つまり、この作品の最終的な性質である-音響効果と同様に、便宜的な理由のために私はここでプレイヤー・ピアノを使用しなかったのだが、いくらか録音を編集したのだ。それは迷宮の主題における音楽的な瞑想である。映画音楽は現実の存在であるよりもむしろそれ以上のものである。ひとつあるいは別の理由のために、映画の中において;それでパッドやギターを過剰に鳴らすことがフーリー(スチュアート・ゴードン)のバイオリンやヴィオラのコントロールされた演奏と同じくらい目立っているのだ。音や音楽作りにおいて純粋に実験的であるいくつかの楽曲が全体を完全にしている。
私自身の感覚は、これは『ループス・アンド・リールズ』に対して何かしら又従兄弟のようなものであるというものだ。-明らかに、歌ものを期待してはいけない。ポール・リダウト、彼はまだ私がこれを書いている時点でカバーに取り組んでいるのだが、『もしそうなら従兄弟は、親戚がTシャツとジーンズなのに対して、きっとスーツを着てネクタイをしているよ。たぶんね』と言っている。」
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ジャケット上のクレジットにも「ほぼ完全にインスト」と書いてあるが、この「ほぼ」というのがくせもの。なぜなら歌詞のある曲が1曲だけあるのだ。『Labyrinthine Dreams』がそれなのだが、楽曲は長いピアノによるインストナンバーのように聞こえる。しかし10分を過ぎて突然幽玄なコーラスが入り、曲はテンポと調を変える。そして短くシンプルな歌詞が歌われるのだ。そして再びピアノの世界へと舞い戻る。長いピアノの後に出てくることもあるだろうが、非常に印象的な歌である。タイトルどおり迷宮の中をさ迷い歩いてきたかのような、そして突然誰かに出会ったかのような、不思議な感覚に襲われる。PHのピアノ演奏スタイルが好きであるならなおのこと、この1曲のためにこのアルバムを買うのも良いだろう。
アルバムはフランス映画『Emmene-moi』(監督はミシェル・スピノザ;仏映画;ダークでストレスフルな話だとPHがライナーに書いている)のための音楽で始まり、終わる。PHの言葉を借りれば『ブックエンド』のように。これは弦楽四重奏のように聞こえるがバイオリンとヴィオラだけで演奏されている。スチュアート・ゴードンの腕前が素晴らしいのはすでにライブを見た方なら実感としてご存知だろうからことさら強調するまでもないのだが、とても素晴らしい。この映画のための楽曲は他にも2,3,5がある。これらは実際の映画のサントラには使われなかったようだ。また、やはり同じ時期にこのサントラに半分使うつもりで書かれた曲が"Exercise for Louis"。この曲は他の曲よりも明るい色を持つとPHは述べている。また、同様に『マクベス』という映画のための楽曲としてギターの即興演奏とループを組み合わせた"Dark Matter"が収められている。
このアルバムでは、弦楽四重奏的な楽曲のほかに、リメイク版『アッシャー』でも多用されたディストーションのかかったギターを中心にした楽曲と、暗いエフェクトのかかったパルス的な波動を連ねた実験的な楽曲と、MIDIピアノによる楽曲の、大きく4つのタイプに分けることも可能だが不思議と統一感がある作品だ。演奏者として前述のスチュアート・ゴードン(1,2,5,9の4曲)のほかに"Four to the Floor"でマニーエライアスがパーカッションを担当している。この曲だけ二人の共作名義になっている。他はすべてPHの作と演奏。ライナーの最後にPHはこう締めくくっている。『楽曲のどれひとつとして心地よいものではない;ほとんどのパートは、表面の下から、光の向こう側からの音楽である。もうひとつの音響の世界。』しかしながら、個人的にはとても心地よく、その世界にいつのまにか浸ってしまうという意味で、深みに嵌る音楽である。
by BLOG Master 宮崎