"The Silent Corner and the Empty Stage" <Peter Hammill> |
1. Modern
2. Wilhelmina
3. The Lie (Bernini's St. Theresa)
4. Forsaken Gardens
5. Red Shift
6. Rubicon
7. A Louse is Not a Home
第3作目。やはり前期VdGGが解散後にバンドのために書かれた楽曲を含んでいます。前作での「(In the) Black Room」と同様に復活後のライブでは「A Louse is Not a Home」が演奏されているが、残念ながらこれは公式では発表されていない。
オープニングを飾るのは、エフェクトたっぷりの「Modern」。この曲は現在も定番曲としてライブで演奏され、人気も非常に高い一曲。Kグループでの演奏も、復刻された「The Margin+」の「+」ディスクに収録されているので聴き比べてみてほしい。力強く強迫的に歌われる歌詞にも注目。メロトロンも登場することでプログレ・ファンにも人気があるが個人的にはライブでのシンプルな楽器構成の方が好み。2曲目は一転してアコースティック。ピアノによる出だしの「Wilhelmina」。ハープシコードやメロトロンを交えて途中でダイナミックな展開を見せるものの再び穏やかなエンディングを迎える。その余韻に浸っていると、徐々に高まるピアノのイントロが暗く重く響く「The Lie (Bernini's St. Theresa)」。力強く叩きつけるようなアコースティック・ピアノが印象的。現代音楽的な不協和音をところどころに用いたアレンジも効果的。前作での「In the End」に相当する楽曲だと思うが、ピアノだけでなくオルガンを効果的にかぶせてきていたり、エコーを効果音のように使ったりと、常に何かしら新しいことを試みたいというこだわりを感じる。ベルニーニの「聖テレザ」を引用しているのはそれに触発されたから? おどろおどろしくエンディングを迎えた後に続くのは「Forsaken Gardens」。「見捨てられた庭」とでも訳せばいいのだろうか、Å面のハイライトであるこの曲はソロ的な要素とVdGG的な要素が入り混じり独特の世界を展開している。途中のフレージングは完全にVdGGのものだが、イントロや静かな部分はソロならではとしか言いようのないものです。その感覚の行き来が非常に心地よく、聴くたびに高揚させられます。
B面に移り、1曲目の「Red Shift」でいきなりRandy Californiaのギター。まるで Robert Frippのようなイントロで広がる世界はVdGGの「Pawn Hearts」の"Lemmings"を髣髴とさせるもの。静かに激しく盛り上がっていくこの曲は2000年のユニオン・チャペルでのコンサートで唐突に演奏され観客の度肝を抜いたことはまだ記憶に新しい。ここでのRandyのギターはかなりバンドにマッチした演奏を聞かせてくれる。パート1と2に分けてシングル・カットされたこともあり、この曲に対する期待はそれだけ大きかったのでしょう。名曲です。ちなみにタイトルは天文学用語の「赤方偏移」のこと。一転してアコースティック・ギターの緩やかなカッティングで始まる「Rubicon」も「私はユニコーン」という歌詞で多くのファンの印象に残っている。前の曲とまったく印象の異なる曲を直後に持ってくることでより強い印象を与えることに成功した例だと言えます。そして再び宇宙空間に放り出されたかのような感覚に陥る大作「A Louse is Not a Home」この曲もVdGGとして演奏されることを前提に書かれた曲ですがここでの演奏はこれをソロ作品として扱うことを自ら拒否しているような錯覚すら覚えます。やはり「Pawn Hearts」期の音の延長線上にあるように思えます。ファンとしてはこの時期にVdGGとしてのアルバムのないことが非常に悔しいです。前期と後期の間にぽっかりとあいた幻のアルバムがその片鱗をこの時期のソロ作品に分散しながらもたしかに見せているだけになおさらそういう思いがしてしまいます。VdGGファンの多くが前作とこの作品の2枚を特に好む傾向があるのはそれだけの理由があるといえるでしょう。
この作品が録音された頃、VdGGは解散状態だったはずですが、録音メンバーはまさにバンドそのもの。契約の関係でVdGGの名前ではアルバムを出すことができなかったと後に述懐したことは周知の通りです。ジャケットはドイツ在住の女性画家で、内ジャケットの幾何学模様がなんとも不思議な感覚を与えてくれます。録音エンジニアとしてロドニー・ソファという名前でクレジットされているのはPeter Hammill本人です。
by BLOG Master 宮崎