"Chameleon in the Shadow of the Night" <Peter Hammill> |
1. German Overalls
2. Slender Threads
3. Rock and Role
4. In the End
5. What's it worth
6. Easy to Slip Away
7. Dropping the Torch
8. (In the) Black Room
2ndアルバムは、実質的には本格的に作りこまれた最初のソロ・アルバムだと言うことができるかもしれません。ここにはVdGGで演奏されることを想定して作られたものまでが含まれており、実際、1975年に復活したVdGGのコンサートでは「(In the) Black Room」が演奏されており、それは「The Box」で聴くことができます。これが本当の意味でのソロ・デビュー作品だと解釈することもできますが、そんなことは一言も本人は言っていませんので、あくまでも2ndアルバムとして扱いましょう。
オープニングの「German Overalls」のようにアコースティックな響きをベースに持った上でエフェクトの強いギターやボーカルのエコー処理など、前作とは異なりギミックも多用しています。印象的な歌いだしと後半の混沌としたエレクトリックなアレンジとのギャップも楽しめます。続く「Slender Threads」は「細い糸」という言葉ですが、昨年のツアーでも演奏されたことで認識を新たにした方も多いはず。アコースティック・ギターでの演奏は時代を超える音楽性を持っています。私は1曲目から2曲目にかけて思わず物思いにふけってしまうのですが、突如、一転してタイトルどおりのイントロを持つ「Rock and Role」が始まりはっと我に返るということもしばしばです。テンポこそさほど速くないとはいえ後のパンクを予見させる激しさを奥底に秘めたものです。その激しさの中で寂寥感すら感じさせる歌はコントラストに飛んでいると同時にモノクロームな映像を想起させます。そして一時期はライブの定番曲であった「In the End」。突然の静寂に満ちた出だしから、ピアノによる展開は嵐のような激しさを聴く者の心に叩きつけてきます。そして「What's it worth」。前後の曲がとてもドラマチックなだけにややもすると印象が薄くなってしまうかもしれませんが、これもまた昨年のツアーで突然演奏されたことで注目されました。おだやかなメロディなど現在の作品にも通じる感覚です。
ここ数年定番化している「Easy to Slip Away」ではドラマチックな展開が、聴く者の心を圧倒します。再び、アコースティックな小品「Dropping the Torch」で我に返るという感じでこの曲の余韻を楽しもうとしているところに突如として鳴り響くバンドによる轟音。しかし瞬時に静かになり徐々に盛り上がっていくのだが、これがVdGG曲「(In the) Black Room」である。実際には中間部に「Tower」が挿入されているという表記にアルバムのクレジット上はなっています。確かにこの曲だけがバンドでの演奏を前提としていると感じさせる曲であり、ほかの収録曲とはかなり性質の異なるものだと言えなくもありませんが、個人的にはやはりこのアルバムに納められたバージョンはソロ作品としての仕上げ方をされていると思っています。それは「Loops & Reels」での練習バージョンや「The Box」でのVdGGのライブ・バージョンを聴き比べてみると、楽器のバランスや細部のアレンジに違いを感じるからです。ただし気のせいということもありますので、ご自分の耳で確かめられることをお勧めします。
こうしてみるとアコースティックなものもエレクトリックなものも基本的にはシンプルな楽器構成で歌そのものの力を最大限に引き出せるようなアレンジを施されているように思えます。フレージングや歌いまわしは独特の癖が強く出ており、これが彼の音楽をこの時期、圧倒的に特徴付けていたと言えるでしょう。しかし、このアルバムでも聴ける小品においては実は現在の彼の音楽の特徴とさほど変わらない普遍的なメロディ・ラインもすでに登場しており、彼の音楽性の幅広さは実は最初からあったのであり、当時は聴く側の意識があまりにも強いメロディの癖や歌いまわしだけに注目していたに過ぎなかったのではないでしょうか。古くからのファンの間でこのアルバムと次の「The Silent Corner and the Empty Stage」が特に人気が高いのは、実はそういうところに理由があるのではないかとも考えられます。一番強くPeter Hammillの「あく」とでも言うべき部分が現れている曲が多いという意味で。それはすなわちソロ作品中でもっともVdGGに近い色を持っている曲が収められているということです。
by BLOG Master 宮崎