VdGG History 第1回 |
■VdGG History 第1回:バンド前史
バンドの起源は、マンチェスター大学の学生だったPeter Hammill(ピーター・ハミル)とChris Judge Smith(クリス・ジャッジ・スミス)という二人の才能ある学生の出会いにある。ともに自作の楽曲を持ち、歌を歌うと共に楽器もそこそこ出来るという、言ってみればどこにでも何人かは必ずいるアマチュア・ミュージシャンだった。違ったのは、二人の才能の深さとプロ志向の強さだった。逆に言えば二人とも自信に満ち溢れた怖いもの知らずだったのかもしれない。この時点では、ジャッジ・スミスの方が経験的には豊かだったようだが、ピーターとは違った形でよりエキセントリックであったようだ。ちなみにジャッジ・スミスの演奏する楽器は主にドラムスだったのでピーターとは楽器的には棲み分けができたのだ。二人は一緒に活動することを決め、グループの名前を出し合った。その中にあったのがヴァン・デ・グラフ式発電機、すなわち、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターである。実際の静電気発電装置を発明したヴァン・デ・グラフ博士の名前とはちょっとだけ綴りを変えてあるあたりは二人のこだわりだったのかもしれない。こうしてバンドが誕生した。
最初のメンバーは、ニック・パーン(Nick Pearn;org)とマギー(Maggie;b)を加えた4人での活動開始。グループ最初のステージで、とてつもなくサイケデリックな格好をしてジャッジ・スミスがステージに登場したことで、演奏開始前にマギーがステージを去り、バンドは3人だけで演奏したという。そして当然のごとくバンド活動は休止状態に陥った。
大学の友人の弟(と言ってもピーターの一つ年下に過ぎない)オルガン奏者Hugh Banton(ヒュー・バントン)が参加することになったのはこの時期である。この顔ぶれでしばらくリハーサルを行い、デモテープを録音したり、ジョン・ピールに(大胆にも)直接アポなしで押しかけて演奏してみたりしている。その甲斐あって、米マーキュリーとの契約が結ばれることとなった。その後、ピーターとジャッジ・スミスが休暇を取っている間に、ヒューは新たにメンバー探しを行い、Keith Ellis(キース・エリス)を見つけてきた。キースは当時すでにプロとしてのキャリアを持っていたため、バンドに対してプロのミュージシャンとはどういうものか、ということについて大きな影響を与えたという。ヒューは同時にマネージャとしてのトニー・ストラットン・スミス(後にカリスマ・レーベルを設立)をも見つけ出してきている。またこの時期にヒューが新聞に出したメンバー募集の広告にはGuy Evans(ガイ・エヴァンス)が応募してきたが、この時にはお互いに納得いかずにすぐには加入しなかった。しかし、最終的にこの5人編成(JS/PH/HB/KE/GE)でシングル『ピープル・ユー・ワー・ゴーイング・トゥ/ファイアブランド』を録音している。だが結局このシングルは、マーキュリーとの契約の関係でリリース後1週間で回収される羽目になってしまい、その直後にジャッジ・スミスが脱退している。理由は「ひとつのバンドにメイン・ボーカリストは二人要らない」というものであり、結局は「曲を書いた者が歌う」ことになったのだ。その後、マーキュリーとの契約もこじれ、結局バンドは解散した。
しかしながらピーターはマーキュリーとの契約を履行するためにソロ・アルバムを録音することとなる。このアルバムのために、ピーターはバンドのメンバーを集めて録音を行った。マネージャのトニーはマーキュリーに対して契約条件の改善を求め交渉を行い、結果としてこのアルバムもピーターのソロ名義ではなくバンド名義のものとしてリリースすることになった。これが『エアロゾル・グレイ・マシン』である。バンドは解散前にはイギリス国内をジミ・ヘンドリックスやフリート・ウッドマックの前座としてツアーしており、それなりに知名度も上がっていたのだが、不幸なことにアルバムはまったく知名度のないアメリカで最初にリリースされている。その後、オランダやドイツでのリリースはされたもののイギリスでは結局リリースされずじまいとなる。そのため日本では入手が難しく、長いこと幻のアルバム扱いされていた。このアルバムを録音したメンバーが、プロのバンドとしては、ピーターの言うところのオリジナル・ラインアップということになるようだ。ピーター・ハミル(ヴォーカル、ギター)、ヒュー・バントン(オルガン、ピアノ)、ガイ・エヴァンス(ドラムス)、キース・エリス(ベース)。すでにキース・エリスは故人である。そのため、今回来日する3人について、ピーターは「オリジナル・ライン・アップから生き残った3人」という表現をニューズレターの中で使用したのだろう。
アルバム録音後、当然ながらバンドは元の解散状態に戻っていた。キース・エリスはすでに別の活動を始めており)、アルバム発表であらためてプロとしての活動への情熱に再び火がついてしまったピーターとヒュー、ガイの3人は、トニーと共に活動再開に向けて新たにメンバーを探し始めた。そこにトニーの紹介でやってきたのが、ジャッジ・スミスのバンドでカリスマのオーディションを受けていたDavid Jackson(デヴィッド・ジャクソン)であり、ガイの以前のバンドで一緒に演奏していたNic Potter(ニック・ポッター)であった。こうして、「前期」として知られるライン・アップが顔をそろえたのである。こうしてVdGGは本格的な活動を始めることとなった。
by BLOG Master 宮崎