"A to Z; Healthy Choices" <David Jackson> |
1. Believe in Yourself
2. Mission: to be where I am
3. Citizen Aware
4. Eden
5. Chose Your Choice
6. Daddy on the Prowl
7. Love of My Life
8. Stop and Think
9. Storm
10. Outside the Wall
11. A2Z St John's Primari
昨年DJが取り組んでいたプロジェクトは、歴史のあるロック・フェスティバルで有名なレディングにある聖ヨハネ小学生とのコラボレーションであった。ジャケット上のクレジットは正確には『St. John's A to Z; Healthy Choices』となっている。しかしDJはこのアルバムを単に『A2Z』と表記することが多く、それはこの1年生たちのことなのである。DJのHPに載っている紹介のコメントは次のようなものだ。
「学校の子供たちと一緒に作った重要な事柄についての歌もののCD;アルコール、喫煙、麻薬、風変わりで/危険な事柄についての。そして、その他のすばらしい楽曲も。これらは小学校の子供たち(5歳から11歳だ)ともちろんとても理想主義的だ!!! そして私もまたこのプロジェクトをとても誇りに思っている。 (a CD of songs with school children about important issues: alcohol, smoking, drugs, stranger/danger and other great songs too. These are Primary kids (5 - 11 years old) and of course very idealistic!!! And I am very proud of this project too.)」
おそらく、実際には『Beams & Bells; Live at QEH』と同様のコンセプト+ダンスチームという形で行われた『"BEAMS, BELLS & JELLYBEANS" - Lighthouse, Poole - Friday 14th Feb '03』というイベントの後に始動したものと思われるが、このプロジェクトを実行するための資金は2000年と2001年にDJの活動に対して贈られたジ・アーティスト・オブ・ザ・イヤーの報奨金である。その報奨金を元にDJは子供たちとのコラボレーションを実行に移したのだ。
楽曲は、子供たちによって歌詞がかかれたものがほとんどであるが、中に先のアルバム「Beams & Bells」で発表されたECMの重鎮ヤン・ガルバレク作曲の「ミッション」が含まれていたり、クラシック作曲家ブラームスにサンタナ/マシューズの名前も1曲ありました。さらに驚かされたのはピンク・フロイドの「ザ・ウォール」から「アウトサイド・ザ・ウォール」が選ばれていることだろう。全体として子供たちの歌が楽しく、サックス類は控えめと言えるかもしれないが、それでもこれは紛れもなくDJの音楽が聞こえてくる。1曲目の「Believe in Yourself」は、イントロのソプラノ・サックスの音色とフレーズに思わずメロメロになってしまった。子供たちが順番にリードを歌いながらコーラスを付けていくというスタイルはアルバムの中心的なスタイルであるが、いかにも小学生らしい音程の不安定さや表現力の硬さは「子供らしさ」に結びついてとても微笑ましい。2曲目「Mission: to be where I am」ではヤン・ガルバレクの書いたメロディにたどたどしくも一生懸命な歌が『Beams & Bells』のバージョンよりもさらに素晴らしく、ライブでも定番になっているだけのことはあります。3曲目「Citizen Aware」ではユーモラスだが日本人好みの哀愁のあるバンジョーのイントロに導かれて子供たちの合唱が始まる。ここでもたおやかなソプラノ・サックスの音色がやさしく歌声にかぶさってくる。4曲目の「Eden」は小川のせせらぎ、小鳥の鳴き声に女の子たちの朗読が順繰りに語られる。おそらくこの自然音はサウンドビームとジェリービーン・アイによる演奏なのだろう。もちろんキーボード系のシンセも含めてDJの演奏。そしてもちろんフルートの演奏は素晴らしい。5曲目「Choose Your Choice」では子供たちが男の子チームと女の子チーム分かれて交互に歌うのだが、レゲエのリズムが楽しく、そこにフルートかホイッスルだろうと思われる演奏が絶妙に絡んでいく。ここでも子供特有のシリアスなユーモアとでも言うべき面白さがある。次の「Daddy's on the Prowl」では珍しく金管系の、いわゆるブラスサウンドが用いられている。またサウンドビームによる妙なリードも入り、ファンキーなリズムに乗って、しかし静かな雰囲気は残したままR&Bが展開される。これもDJの作曲だと思うとその音楽性の幅の広さには驚かされる。「Love of My Life」はブラームスの曲にカルロス・サンタナとデイブ・マシューズが詞をつけたもの。ここでのソプラノ・サックスのソロは絶品である。8曲目は「Stop and Think」サウンドビームによる強烈なイントロに始まりハードなリズムにラップ的な子供たちの歌声が重なっていく。生のバンドで演奏したらかっこいいだろうなぁと思わせる一曲。次の「Storm」でもサウンドビームの音の絨毯が敷き詰められる上に、今年のイタリアでのライブでもDJと共演したフレンチホルン奏者マーティン・メイズ(Martin Mayes)のソロが淡々と流れるように重ねられている。それをバックにして子供たちの朗読ソロが順繰りに語られる。このマーティン・メイズについてDJは以前私宛のメールの中でこう書いている。「ホルン・プレイヤーのマーティン・メイズは『ユニーク・ホルン』という素晴らしいCDを出している。それは手に入れるだけの価値があるものだ!(The horn player Martin Mayes has a great CD called 'Unique Horn' -it is well worth getting a copy!)」機会があれば探してみて欲しい。そして「Outside the Wall」。ピンク・フロイドのヒット曲をどのようにアレンジしているか、これもまた聞いてみて欲しい。それだけの価値はあると言っておこう。この曲ではテナー・サックスのソロが重ねられている。そして最後の曲「A2Z St John's Primary」。このアルバムの中でも極めつけに楽しい曲だ。こんな曲をDJが書くんだ!と思わず笑顔になってしまう。
演奏は基本的にDJによる打ち込みと生演奏。マーティンのホルン、そして子供たちの歌。DJのHPで販売されているだけのこの作品は全てCDRである。マスタリングはAIRスタジオでDJの息子のジェイク・ジャクソンによって行われている。このアルバムはVdGGとはかけ離れているかもしれないが、音楽を愛する人たちにとってはきっと愛すべき作品となるであろうことは間違いない。子供たちはもちろんプロではない。しかし、楽しい。そしてその奥に見え隠れするDJの音楽性は果てしなく広いのだ。
by BLOG Master 宮崎