"The Noise" <Peter Hammill> |
1. A Kick to Kill the Kiss
2. Like a shot, the Entertainer
3. The Noise
4. Celebrity Kissing
5. Where the Mouth is
6. The Great European Dept. Store
7. Planet Coventry
8. Primo on the Parapet
前作同様にテラ・インコグニタで録音とミックスダウンが行われた本作はしかし、前作とは180度趣を変えたハードな楽曲が前面に押し出されている。プロデュースはPHのみに戻っており、デヴィッド・ロードは謝辞にかろうじて名前が出ているのみとなっている。製作は1月から9月までと比較的長く、時間をかけた背景には、再びバンド編成での録音となっている点があげられるかもしれない。ファンの大歓迎を受けたバンドのメンバーはマニー・エライアス(Manny elias)(ds)、ニック・ポッター(Nic Potter)(b)、ジョン・エリス(John Ellis)(g)にゲスト的に数曲でデヴィッド・ジャクソン(David Jackson)(sax,flute)が参加している。このバンドによる激しさを象徴するかのようにブックレットの最後にはこういう言葉が記載されている。「Number One in the A Loud series」つまり前作の「BeCalm」と対を成すコンセプトであることが表明されているのだ。
「A Kick to Kill the Kiss」では、ここ数作で確立されてきた観のあるPH流のポップ・ソングである。バンドならではのラフな感じと整然としたアレンジが響かせる歌い方のボーカルと面白い対比を見せている。ポップだがマッドな感じを楽しめる。「Like a Shot, the Entertainer」ではさらにポップなPHが姿を見せるが、不思議と耳に残る(ポップ・ソングだから当たり前なのかもしれないが)メロディが不可思議な印象を与えてくれる。ポップ・ソングとは言いながらもコード展開は非常に面白く、それがこの曲の最大の魅力だろう。3曲目はタイトル・ナンバーである「The Noise」。それまでのどちらかと言えば和やかなポップ・ソングから一転してハード・エッジなエレキ・ギターの歪んだ演奏が背筋をぞくぞくっとさせる。『I loved the Noise, electric breath; Noise filled the emptiness, roared in the emptiness.』という歌いだしから最後の宣言まで、テンションの高い演奏と歌が非常に心地よい。この1曲だけでもこのアルバムは聴く価値があるだろう。続く「Celebrity Kissing」では、イントロのギターこそ同じ雰囲気だが、曲全体は少しポップソング寄りのもの。勢いがあるためこれもまた気持ちよく、こういう楽曲だけでアルバムを固めてくれたらよかったのにと思ってしまう。
ギリシア盤のみ存在するLPではB面の1曲目となる「Where the Mouth is」はヘヴィなブルースである。これまでの数あるアルバムの中でも一番もろにブルースしている曲ではないだろうか。好みは分かれるだろう。次はドイツ語版も後に作られた「The Great European Dept. Store」だ。いかにも欧州大陸風のメロディとリズム。コーラス・ワークは秀逸で、ポップかつヘヴィな一種独特の雰囲気を醸し出している。これもまたさびの部分が頭に残る曲だ。そしてふたたびダークなブルース風のリズムに重いベースがリフを奏でる「Planet Coventry」の始まりである。Kグループの「Happy Hour」をブルース風にしてポップ・ソングの要素を加味するとこうなるのだろうか、と思えるアレンジである。リズムがタイトな分「Happy Hour」よりも軽い曲に聞こえる。最後を締めくくるのは「Primo on the Parapet」である。近年の来日公演でも演奏されたので記憶に残っている方も多いと思うが、ギターのフレーズが難しくて、2001年のライブでは弦が切れてしまいちゃんと弾けなかったため、2002年の来日公演では、この曲のギターフレーズは難しいんだよと「I like difficulties.」という名言を残している。複雑で長い曲であり、緊張感も非常に高く、それゆえライブでもかなり人気のある曲である。
久々のバンドでのアルバム製作、それが非常に良い形で作品になったと感じられる。充実した楽曲群も、PH流ポップ・ソングを聴くことが出来れば、そのクオリティの高さが分かるだろう。「ポップ」だから嫌い、という人はいまどきそんなにいないと思うが、ポピュラー・ミュージックというものの力と素晴らしさを知っているが故のポップ・ソングがここにはある。LPはギリシアのカメレオン・レーベルから出ているものがあるが、ジャケットはCDのものを引き伸ばしたようなもの。ポール・リダウトによれば、引き伸ばしたことによるバランスの狂いを修正しているそうだ。
by BLOG Master 宮崎