"The Love Songs" <Peter Hammill> |
1. Just Good Friends
2. My Favourite
3. Been Alone so Long
4. Ophelia
5. Again
6. If I could
7. Vision
8. Don't Tell Me
9. The Birds
10. This side of the Looking-Glass
Kグループでのスタジオ録音のアルバムを2枚を発表した後、まず最初に発表されたのは、予想外のタイトルを付けられたこのコンピレーション・アルバムであった。ここには新曲はひとつもなく、完全な新録音も1曲を除き存在しない。タイトルどおりラブ・ソングばかりが集められている。基本的なコンセプトは、ピーター・ハミルという歌い手を知らない人々への「入門編」という位置づけにあり、そのためボーカルを前面に出したミックスに統一されている。また、アレンジそのものもオリジナルに重ねられた音はポピュラー・ミュ-ジックの王道を行くような華やかでキャッチーなものが多い。ジャケットは、ソファに足を投げ出して座っているPHの写真を用いたもので、ラフな格好のいい男というイメージを出そうとしたものか?
1曲目「Just Good Friends」はKグループによる演奏で、完全なリメイクである。この曲を録音しなおしたことがこのアルバムを製作しようというきっかけになったという。イントロのアコースティック・ギターをなくしストリングス系のシンセでドラマチックさを演出している。2曲目はスタジオ録音をベースにボーカルを差し替えた「My Favourite」。重ねられたキーボードの軽さが心地よい。続く「Been Alone so Long」もスタジオ版をベースにしているが、リズムが軽くなっておりずいぶんとポップな印象。続く「Ophelia」も軽いパーカッションを加え、軽快な印象の曲に生まれ変わっている。「Again」ではライブをベースにしており、バッキング・ボーカルは完全に後から付け加えられているが、それ以外はあまり手を加えているようには聞こえない。
「If I Could」でも、Kグループでのライブを持ってくることでまた違う印象をこのアルバムに与えているが、ライブならではのソリッドさがこのスロー/ミディアム・テンポの曲をもってしても隠しようがなく、アルバム全体の中では少々ヘヴィに感じられる。再びスタジオ・バージョンをベースとしたオーバーダビングによる「Vision」では、ピアノに軽くフェイズシフトをかけて軽めにした上で、ストリングスとソロ・バイオリンを重ねることでより一般的なバラッド風にしあげている。ボーカルも差し替えられており、オリジナルに比べると軽い。「Don't Tell Me」はシンセをオーバーダブしている。狙いは同じで軽く、華やかな音にすること。狙いは成功しており、単なる失恋の歌(一般的なポップスの範疇におさまるようなラブ・ソング)のように聞こえる。「The Birds」ではスタジオ録音に明らかに重ねたと分かるストリングス系のキーボードの音がにぎやかで、ロバート・フリップのギターも違って聞こえる。そして最後は「This side of the Looking-Glass」。もともとオーケストレーションが施されているこの曲ではボーカルを差し替えることで狂気すれすれの歌から普通のラブ・ソング風に歩み寄っている。
基本的にはオリジナルあるいはライブ・テイクをベースにオーバーダビングとリミックスで華やかな彩を添えるというやり方で作られており、リード・ボーカルも「Been Alone so Long」を除いたすべての曲で新たに録音しなおされている。このアルバムがどの程度PHの狙いに沿って成功したのかよく分からないが、古くからのファンにはあまりいい評価は得られなかったようだ。その一方で女性ファンをはじめとしてこのアルバムをとても気に入っているファンも確実に存在している。このアルバムからPHを聴き始めたというファンも少なからずいるようだ。
by BLOG Master 宮崎