リマスター盤の感想など |
すでに海外のMLではリマスターの音質について賛否両論が交わされていますが、個人的には気に入りました。まず、リマスターを担当した(ブックレットの長文の解説を書いてもいる)マーク・パウエルさんはキャラバンのリマスターも手がけた人であるということを前情報として聞いていましたが、キャラバンのリマスターは実を言うとあまりにも音質がクリアになりすぎていたために、演奏の粗が聞こえるようになってしまっていた、という点で少々不満がありました。LPでは気が付かなかった演奏上のミスが聞こえるのです。また、楽器の音量バランスがこれまでのイメージとは異なって聞こえるということも私にとっては少々違和感を感じさせるものでした。ですが、今回のVdGGのリマスターではピーターとデヴィッドが中心になってバンドのメンバーがコンサルタントをしているということもあってか、オリジナルの手触りを見事に復活させているのではないかと思います。MLで話題になったポイントの一つにベースの音がでかすぎる、という点がありましたが、ロンドンでのライブを見た後では、私には、これこそが彼らが実際に演奏していたときのバランスなのではないか、という風に聞こえてきます。多少ベースが大きくなっているように聞こえますが、これは意図的にライブでのバランス、あるいはレコーディングの際のバランスを再現する方向で調整したのではないでしょうか。また、音がクリアになった、と書きましたが、実際音の輪郭がものすごく鮮明になっており、そのことによって、音一つ一つの奥行き感が増しています。エコーやディレイまでもが鮮明に聞こえることにより、立体感が増していると言えるでしょう。
ボーナス・トラックについていえば、「The Least...」での、すでに耳にしたことのあるシングルからの収録である「レフュジーズ」のA面、B面は、楽曲的には目新しいわけではないのですが、リマスターされたことでものすごく新鮮に聞こえます。まるで初めて聴いているかのような錯覚に陥りました。これはある意味期待していなかっただけに大きな喜びでした。「H to He」では、今回のボーナス・トラック中最も期待の大きいであろうスタジオ・ライブ「蛸/烏賊」が、「エアロゾル」収録のそれと同じ曲だとは思えないほど見事にこの時期のVdGGの曲となっています。原曲にデヴィッドのサックスだけが追加されているイメージで聞くと驚かされることでしょう。ヘヴィでダークな再演です。そしてぼそぼそと聞こえるメンバーの(それとプロデューサ?)話し声が聞こえてきて「テイク・スリー」と聞こえた後に始まる「戦室の皇帝」はもちろんロバート・フリップの入っていないバージョンであり、その分バンドのみによる演奏を堪能できるものとなっています。これもまたずいぶんとイメージが変わります。原曲と比較することにも十二分に楽しみを見出せることでしょうし、あるいは、「もしロバートのギターが入っていなければどうなっていたんだろう」という長年の疑問・期待・不安を解消するに足る出来だと思います。これが当時のライブで聴けたであろうバージョンに幾分なりとも近しいものなのでしょうか。そして「Pawn Hearts」に収録されそこなった幻のソロ楽曲とシングル盤とも異なるバージョンの「テーマ・ワン」と「w」。まずはシングル用の2曲のバージョン違いですが、これもまた音質が抜群に良いため非常に新鮮です。アレンジも異なります。これら2曲を聴いたことで逆に本来のシングルバージョンを見直す、聴きなおすということも必要でしょう。その違いを聞き比べるということが更なる楽しみとして加わりました。そしてソロ楽曲。ガイの書いた曲はアヴァン・ギャルディックなもの、デヴィッドのはいかにもジャズ好きな彼らしいもの、ヒューのは恐怖映画のサントラにでも使えそうなドローンが印象的なダークなもの。これらについては聴いてもらった方が早いでしょう。好き嫌いは少々分かれるかもしれませんが、これらの音楽性が背景にあって初めてVdGGの音楽が成立していたのだなぁと改めて考えさせられました。
リマスター盤はどうやら通常のCDのみでの発売のようで、これまでのところ誰からもコピーコントロールだったという報告はありません。日本盤は当面先ですが、ミニチュアLP(つまり紙ジャケット)での発売は日本だけということもあり、海外でも待ち望まれているようです。願わくは、歌詞とともに、あの長い解説の全文の対訳をつけて欲しいものです。
by BLOG Master 宮崎