特別CDR "V - Five New Songs / November 2016" |
Peter Hammill
1. Anagnorisis (2'52")
2. Milked (5'48")
3. Reputation (3'28")
4. Torpor (3'46")
5. The Descent (4'09")
今回の日本公演で、限定78枚という極めて少数の販売が行われた特別CDRをご紹介しておきましょう。入手できなかった方も多いかと思いますが、基本的には、ピーターがジャケット上にも書いているように、ソロの次回作向けの制作中の楽曲ですので、次に出てくるソロ・アルバムに収録されているものになります。全公演終了後に訊いてみたところ、「誰にもわからないけれども、たぶん『レス・ザン・ア・イヤー』には出せるだろう」と答えてくれました。
今回惜しくも入手できなかった方は、正式なアルバムまで、今しばらくお待ちいただくことになりますが、その分、最終的な完成形でのアルバムという形で初めてお聞きになれるということになります。運よく購入できた方は、すでにお気づきかもしれませんが、裏ジャケットにある曲名のクレジットが間違っています。実際のCDR収録は、1曲目と2曲目が逆です。上記の曲名表記が正しく、写真の方がミスプリントです。お気を付けください。
今回の日本公演の前半の段階では、誰もが1日1曲ずつやるものと思っていましたが、実際には4曲目の「Torpor」は演奏されませんでした。確認したところこのCDRの収録曲は、なんと、最初にアナウンスされた「全部ピアノ楽曲」ではなく、この「Torpor」だけはギター楽曲でした。そのことも影響しているのかもしれませんが、本当のところはピーターしかわからないので、「torpor」は演奏しなかった、という事実だけを記しておきます。
驚いたことには、この『制作中』の作品であるはずの録音は、確かに非常にシンプルなピアノと声、ギターと声のみで構成されているのですが、一部の歌にはすでにコーラスなどのバッキング・ボーカルがオーバーダビングされています。ピアノやギターのアレンジもすでに完成の域に近いものと言ってもいいかと思います。ジャケット上に記載されているコメントには、『来るべきソロ・アルバムからの楽曲の初期バージョン…。それ(次のソロアルバム)は、それらの最終形態においてであっても、これ(このCDR)と同じようにシンプルなものになるかもしれない。』とあるので、実は、それほど「初期のバージョン」という訳でもないのかもしれません。
"Early versions of pieces from the forthcoming solo album… which may well end up being as simple as this even in their final form."
ただ、音質的には、自宅のスタジオで簡単な録音だと思いますが、オーバーダビングまでしてあるピアノとギターは別として、ボーカルだけは簡易的に録音したのではないかと思われるようなすごくリアルな奥行き感というか部屋の空間ノイズ的なものが感じられます。エコーも少なめでかなりドライな音だという印象を受けました。
1. Anagnorisis (2'52")
初日の札幌と土曜日の新宿で演奏された短めの曲。タイトルを辞書で調べてみると英語でした。
1.The moment in the plot of a drama in which the hero makes a discovery that explains previously unexplained events or situations.
2.The denouement or unfolding. (GNU version of the Collaborative International Dictionary of English)
3.Recognition; clearing-up. (The Century Dictionary / Cyclopedia)
現代英語的には3の意味で使うことの方が多いという意見も多いのですが、ピーターに質問したところ1の意味でこの単語をとらえていました。ピーターの説明ではまさに『ヒーローが』という例を用いた説明でした。それまでの理不尽なまでに自分を翻弄してきた出来事などが、いっぺんに説明がついてしまうような、すべての繋がりや辻褄があってしまう、まさにその瞬間のこと。自分の運命が明らかになった瞬間など。そういう意味では2の「大団円」という場面で使われることも多いようです。
2. Milked (5'48")
11日の代官山と最終日の新宿の2度演奏された曲。辞書(研究社 新英和中辞典)を引くと、動詞としての「Milk」には以下のような意味があります。
1〈牛・ヤギなどから〉乳を搾る.
2〈ヘビ・木などから〉毒[汁]を抜き取る.
3; A …から利益[うまい汁]を搾り取る,…を搾取する.
B 〔+目的語+前置詞+(代)名詞〕〈金・情報などを〉〔…から〕搾り取る 〔from,out of〕; 〈人から〉〔金などを〕引き出す 〔of〕.
歌詞カードが付いていないので、文脈から判断することも難しいのですが、これらの意味をどのように二重、三重にかけているのか、想像しながら聴いています。収録曲中一番長いということもありますが、シンプルでありながら重厚さすら感じさせると個人的には思っています。
3. Reputation (3'28")
この曲は、土曜日の新宿で、1回だけ演奏された曲です。辞書によると「評判、世評、好評、名声、令名、名望」などの意味があるようです(研究社 新英和中辞典)。曲自体は三拍子で、割と軽快なピアノをバックに歌われます。ある観客は「かわいい曲」と表現していましたが、私の意見は、歌詞の内容を確認するまで保留させてください。
4. Torpor (3'46")
「タダならぬ音楽三昧」でも紹介されていましたが、辞書的には「無気力、無感覚、まひ状態、不活発、冬眠、鈍麻状態」などの意味(研究社 新英和中辞典)だそうです。ピーターにしては珍しいパターンのアルペジオで演奏されるギターが大変印象的な曲です。何か昔の映画を見ているかのような錯覚を覚えました。本CDR中唯一のギター曲。
5. The Descent (4'09")
二日目の経堂と最終日の新宿とで演奏されました。一般的には「降下、下山、没落、転落、下落、下り坂、(不意の)襲来、急侵入、(警察などの)突然の手入れ、臨検」などの意味で使われることが多いようですが、「[通例修飾語を伴って] 家系,系図,出(で), 血統.」などの意味もあり、さらには、法律・法学用語として「世襲,相続」という意味もあるようです。
ライブでの印象そのままに、今回のミニ・アルバムのラストを飾るにふさわしい曲です。それにしては少し短めかもしれません。老成した感じさえするのですが、一体どういう歌詞なのか気になります。ちなみにこの曲は、ある日目覚めたら突然アイディアが「降りてきた」のだとピーターは言っていました。個人的には「Milked」と並んでお気に入りです。
さて、ピーターとの食事の際に、次のソロ・アルバムはいつ頃出すつもりですか?と質問した答えが、先述した「たぶん一年以内」という答えだったのですが、現時点でのアレンジで良しとするのか、それともさらに手を加えるのかは分からない。あまり手を加えないと決めてしまえばリリース時期は存外もっと早く訪れるのかもしれませんが、手を入れると決めた場合には、もうしばらく時間がかかる事でしょう。『レス・ザン・ア・イヤー』の前に、ピーターはこう言いました。「アイ・ドン・ノウ」。本人にも分からない。そういうことです。
By BLOG Master 宮崎