"World Record" <Van der Graaf Generator> |
1. When She Comes
2. A Place to Survive
3. Masks
4. Meurglys III
(the Songwriter's Guild)
5. Wondering
1976年5月10日から30日までの20日間で録音。ミックスダウンされた通産7枚目にして後期3部作最後ののアルバムである。1974年のピーターのソロ・アルバム「ネイディアズ・ビッグ・チャンス」製作時にはすでに再結成が決定していたことを考え合わせると、バンドとしての結束が(再び)固まった4枚目のアルバムだとも言える。バンドの(幻の)デビュー・シングルが『People You were Going to』であったことを考えると、『ネイディア』で再び同じ曲を取り上げたことにことのほか深い意味を見つけようとするのは考えすぎであろうか。いずれにしろ、『ネイディア』で見出されたラウドでパンクな音楽的キャラクターは、後期VdGGのひとつの特徴ともなっているストレートでハードなキャラクターと根っこの部分が同じだと言うことはあながち間違いではないだろう。そして、このアルバムではピーターが「ダンスのための音楽」だと定義した楽曲が収められている。
何を以って「ダンスのための音楽」というかはおそらく個人個人で違っていると思うが、1曲目からガイの軽快なスティック捌きに耳を奪われることは間違いない。前作までの、どちらかと言うと重いリズムからは明らかに異なるシャープでタイトなリズムの刻み方。基本的には変わらないと思うのだが…、弾けている。これを軽いと感じるかどうかでこのアルバムの好みは分かれるかもしれないが、個人的にはこれをちゃんと聴いておかないと次のアルバムの理解がさらに難しくなるだろうと感じた。
楽曲は5曲。内1曲がピーターとヒューの共作である。このアルバムの発表は「Godbluff」の発表からほぼ1年後。プロデュースはバンド、エンジニアリングはパット・モランと前2作と同じである。どう考えても、三部作という隠れたコンセプトがあるに違いないと思わずにはいられない。がしかし、それは聴き手の勝手な思い込みでしかなく、作り手は作りたいものを作るのだ。少なくともこの場合そうであった。再結成以来、あるいは「Godbluff」発売以来断続的に続くツアーの中でもまれた新曲もまた多く、「Meurglys III」もまたライブでの発表が先であった。
「When She Comes」:フルートとドラムスの絡み合うイントロからして軽い。しかし、ピーターのボーカルが入ってくると雰囲気は軽いながらも変わっていく。前作から目立ち始めたピーターの弾くEギターがかなり存在感を増していることもあって、どちらかと言うと破滅的な匂いがしてくるのである。狂気の色を帯び始めていくといってもいいかもしれない。これは、明るい曲調との相乗効果かもしれないのだが、明るい、軽いがゆえに尚更そう感じるのかもしれない。ある種、やり投げな破れかぶれ的な雰囲気を感じるのは私だけだろうか。これこそが当時出現し始めていたパンクに対する4人の回答だったのではないだろうか。
「A Place to Survive」:イントロは再びドラムスのどちらかといえば軽いビートが導いてくる。今度は低音を中心にオルガンがブルージーな雰囲気を作り出す。このどちらかといえばブルース的なコード進行とフレージングを軸に彼ら独特のメロディと決めが織り込まれている。全体として音はスカスカと言ってもいいくらい密度が薄い。その分リズムが強調されていると言えるだろう。これを聴けばダンスのための音楽というのも頷かざるを得ない。それにしてもルードでヘヴィな陽気さだ。この荒々しさとシリアスさの奇妙なバランスこそがこのアルバム全体の特徴だと言える。
「Masks」:一転してムーディーな、と言って悪ければ気だるいサックスのイントロがA面最後の曲へと誘ってくる。ところどころで断ち切るかのようなギターのフレーズがこの曲を単なるブルージーなバラッドではなくヘヴィな曲にしている。もちろんピーターの歌がそもそもウェットなブルース的なルーズさとは無縁なものであるため、この曲の持つ独特な違和感はものすごく強烈だ。しかも普通ならこんな展開はしないだろうというVdGG的な曲展開がその感覚に拍車をかけている。この曲はパート1と2に分割される形でシングル・カットもされている。
「Meurglys III (the Songwriter's Guild)」:クラシック・ライン・アップの楽曲の中でも1,2を争う大作にして問題作。ピーターの持っているEギターの愛称をそのまま曲名にしたものだが、その通りにEギターを中心にすえている。イントロはしかし、オルガンの不気味なフレーズから始まり、そこにソプラノと思われるサックスが絡んでいくもので、後期よりも前期の雰囲気に近いのかもしれないが、前期では実際はこのようなフレーズは一切使われていない。そして一気にドラマチックな歌のパートにつながっていくのだが、ここでもダークで危険な雰囲気が強く押し出されている。非常にドラマチックな前半から混沌とした中盤の楽器の鬩ぎ合いを経て再び歌に戻り…。「Godobluff」ではチャチャであった。ここでは…。こればかりは聴いたことがない方のことを考えて伏せておきたい。実際に自分の耳で確かめて欲しい冒険がここにある。そして珍しくフェードアウトしてこの曲は終わる。実際のライブでは一体どんな演奏が繰り広げられたのであろうか。非常に興味深い。
「Wondering」:そして最後の曲。ヒューとピーターの共作。ヒューの弾く教会オルガン的な音色とせり上がり昇天していくかのようなボーカルとが美しすぎることで名曲とも駄作とも言われているこの曲はしかし、とにかく素晴らしい。シングルカットも行われた。他の4曲とは明らかに相を別としているこの曲は荒れ果てた荒野を旅してきた果てにたどり着いた理想郷のような、地獄のようなこの世をさ迷い歩いた末にたどり着いたエデンの園のような、そんな楽曲である。歌詞もまた素晴らしい。
このアルバムを発表後、その年のレディング・フェスティヴァルでの演奏は伝説的なステージとなっている。日本では古くからLPのライナーノーツにたかみひろし氏がその時の感激を書いていたことから知られているが、最初、彼らが演奏し始めたときには雨が降った後で、ピーターのボーカルがPAから出ていなかったのである。客席からの野次でそれに気づいたバンドは一旦演奏を中止しPAを調整後再び演奏を始めた。しかし、途中で止めた曲は結局演奏されなかったのである。そのレディング・フェスティヴァル出演を含め、あまりにも多くのライブを1976年末まで行った。その結果、ツアーに対して疲れ果てたヒューが脱退を表明したのである。ヒューは結婚して間もなかった、ということも理由のひとつだったのではないかと後にデヴィッド・ジャクソンは語っている。そしてバンドは残ったメンバーでなんとかやっていこうと話し合ったのだが、オルガン奏者は入れないということも同時に決定した。そしてバンド名から「ジェネレイター」をはずすことも。こうしてVdGが生まれたのである。1976年12月のことである。
とにかく、このアルバムはクラシック・ライン・アップでの最後のアルバムとなった。そして今これは最後のアルバムではないということが立証されようとしている。28年ぶりの新作が4月25日に発表されるのである。はたしてどんな音楽がそこにあるのか。今はただ待つしかない。
by BLOG Master 宮崎