Project Brain (Guy Evans) #6 - Footsbarn Present "The Circus Tosov"(1980) |
"Footsbarn Present The Circus Tosov"
(Broken Records/Music for Tossers; MFT1, 1980)
Side-1
1. Blaydon Races (Trad. Arr. Footsbarn)
2. 6 Hand Reel (Trad. Arr. Footsbarn)
3. Bubbles (Arr. Stanley Haywood)
4. Sleepy Lagoon (Footsbarn)
5. The Yums Yums (Footsbarn)
Side-2
1. Off to California in the Morning (Trad. Arr. Footsbarn)
2. Rio (Footsbarn)
3. Macpherson's Lament (Trad. Arr. Footsbarn)
4. Came Ye O'er Frae France (Trad. Arr. Footsbarn)
5. Root Toot (Trad. Arr. Footsbarn)
6. The Rutters Ball (Footsbarn)
7. Fanfare (Fanfare)
This Record was played, recorded and produced by a bunch of Tosov.
Recorded at 'Hidden Drive' Studios, Pyworthy, Devon.
Produced by Guy Evans
Total playing time; 約15分
私にとっては、長年の謎であったレコードを、昨年ついに入手できたのですが、謎はますます深まるばかりです。
主人公たる「サーカス・トソフ」の顔ぶれが不明です。ジャケットやレーベル面を見ても、出てきている名前は、プロデューサーであるガイ・エヴァンスとジャケット写真を撮影した人物、そして1曲だけアレンジを担当した人物の3名だけなのです。
レコードは、45回転の12インチEPと言うべきか、それともミニ・アルバムと言うべきか、とにかく15分程度しかありません。そして、内容はサーカスの出し物、それも笑劇場としか呼べないものでした。
アルバムが始まるのはチープな音色のブラスバンドの演奏から。その後にサーカス・トソフの紹介(メンバーの自己紹介)が入っていますが、いかにもサーカスらしいというか、なんというか、男の声なのに女性の名前だったり、間違いなくサーカスをやる上での芸名としか思えない(しかもファーストネームだけとか)、大道芸の雰囲気たっぷりのものです。それは裏ジャケット上にあるクレジット。つまり「トソフの面々(Bunch of Tosov)」ということです。
ここで思い出していただきたいのは、先に紹介したチャーリー・アンド・ザ・ワイド・ボーイズがデビューしたのがフッツバーン劇場だったという事実です。このフッツバーン劇場とは、旅芸人を目指す一段の人々が、1971年にコーンウォールのフット家の納屋(バーン)で練習を始めたことから「フット家の納屋劇場(Footsbarn Thatre)」という名前になったようです。そして劇団自体もフッツバーン・トラヴェリング・シアターと名乗ったようです。
劇団は、その後、1984年にイギリスを離れて世界各地を転々としながら出し物を演じていたとのことですが、1991年にはフランスに拠点を設けて活動するようになったとのことです。したがって、コーンウォールでの活動は1971年から1984年までの約13年間。その間にシェークスピアやモリエールのような真面目なものから、サーカスや大道芸に至るまで、芝居、音楽、曲芸などありとあらゆるパフォーミング・アートを見せてくれているだけでなく、そういったものを教えることもやっているようです。
ガイ・エヴァンスが地元コーンウォールで行われたこのような活動に巻き込まれなかったはずはない、と私は思っています。学生のころから自身の通っている大学だけでなく、様々な大学の学園祭や、学生主催のコンサート、フェスティヴァルに運営する側として積極的に携わり、また、一方で、こっちのバンドにドラマーがいないとか、あっちのバンドのドラマーが怪我をしたとかなどで、様々なバンド(と音楽)に自身の演奏を提供もしていたガイですから、いろんな知り合いを通じて援助を請われたのではないでしょうか。そういう中の一つとしてフッツバーン劇場に所属していたサーカス団のミニ・アルバムのプロデュースの依頼が来たとしても驚くには当たりません。むしろ、演奏面でも何かしらやっていたとしても私は驚きません。
レコーディングが行われたスタジオは、ロング・ハローのアルバムを録音したことでお馴染みのヒドゥン・ドライブ。録音された時期は、クレジットはありませんが、発売と同じ1980年のようです。このスタジオは当時はまだガイ・エヴァンスが所有権を(一部?)持っていたはずですので、エンジニアリングのクレジットはありませんが、録音およびプロデュースをガイが行った、と見るのが一番ありそうな話ではあります。
このレコード、曲の数だけを見てるとフル・アルバムのように見えますが、片面が7分半ちょっとずつ。そもそも自己紹介の所で、「たった15分で世界を巡る」と宣言しているではありませんか。その中に、これだけの曲を詰め込んでいる訳ですが、間をつなぐのはサーカスのセリフの掛け合いです。ジャケットの写真はダブリンのインナー・シティ・フェスティヴァルの写真だとあり、トソフだろうと思われる道化芝居グループが写しだされています(裏ジャケットも写真で、そこでは表の写真の右端でズボンに両手を突っ込んでいるパイロット帽をかぶって上半身裸の男が観客にお尻を向けて屁をこいている写真です。ほかの道化師たちがうぎゃっ、と大げさに驚いてみせています。)
演奏は、オープニングとエンディングはサーカスの登場と退場を示すブラスバンドによるちょっとチープな感じもするマーチとファンファーレです。サーカス団員の紹介を経て、「たった15分」の旅が始まります。イギリスから出発した一団の船旅をイメージさせるゆったりとしたブラス曲。そして、一団はアフリカに到着します。そこではアフリカン・テイストを戯画化したようなパーカッションたっぷりの音楽にセリフが重なり、何やらターザンらしき声も。その後再び旅は続いて北米大陸、しかもカリフォルニア。ケルトの影響のたっぷりと残ったカントリー・ミュージックっぽいアコースティックなフォーク・ミュージックめいたものが聴こえてきます。さらに南をめざしてリオ・デ・ジャネイロに向かいます。ラテン音楽に乗って盛大に歌声が上がります。さらに…、という具合に一瞬、世界一周なのではないかとも思ったのですが、アジア風の音楽は一切出てきませんでしたし、実際リオの次はフランスに来てしまいました。そして最後は出発地へと戻ってきたようです。大西洋を中心とした世界観で成り立っているのかもしれません。
上記のクレジットのように、楽曲はトラッドを中心に展開されていて、ケルト風のフィドルだったり、フォークだったり、あるいはクラシックをベースとした金管楽器のブラス・アンサンブルだったりと(クレズマー音楽とはまったく違いますが)多彩な音楽が展開されています。少なくとも、ロックとかジャズとかではなく、イギリスのコメディ、コントなどの舞台演芸・大道芸を連想・堪能させてくれるものです。ガイ・エヴァンスのイメージとはすぐには結びつきませんでしたが、父親がジャズのビッグ・バンドで各地のイベントなどでも演奏したりしていたのに同行していた子供時代の影響がここにはあるのかもしれません。
by BLOG Master 宮崎