"ALT" Van der Graaf Generator (2012) |
1. Earlybird
2. Extractus
3. Sackbutt
4. Colossus
5. Batty Loop
6. Splendid
7. Repeat After Me
8. Elsewhere
9. Here's One I Made Earlier
10. Midnite Or So
11. D'accord
12. Mackerel Ate Them
13. Tuesday, The Riff
14. Dronus
リリース日が北米ツアーと重なったこともあり、ついつい遅くなってしまいましたが、CD版の最新アルバム「ALT」について、ご紹介いたします。
ご存知のように、本作は完全なインストゥルメンタル・アルバムであり、それもほぼ完全に即興演奏をベースにした作品になっています。もとになっている演奏は、アルバム「トライセクター」「ア・グランディング・イン・ナンバーズ」のレコーディングの際のスタジオ・セッションと、2006年から2012年にかけて行われたVdGGのツアーの最中に行われたサウンド・チェック時のものとなっています。
リリース元のエソテリック・アンテナの発表している文章では、「AN ALTERNATIVE ALBUM REFLECTING ANOTHER SIDE OF ONE OF PROGRESSIVE ROCK’S MOST ENDURING AND CREATIVE ARTISTS 」(プログレッシヴ・ロックのもっとも永続的で創造的なアーティストたちのもう一つの面を反映した、二者択一的なアルバムである。)とあります。
タイトルの「ALT」はもちろん、このリリース文にある「Alternative」の最初の文字でもありますし、PCのキーボードに見られる「Altキー」のことも暗示しています。他にも「高度(Altitude)」の略語としてもこの短縮形が使われています。
省略語ということであれば「外国語指導助手(Assistant Language Teacher)というものもあるようです。歌ものを一切含まないアルバムのタイトルとして、通常の歌ものにおける歌詞・言葉の側面を、インスト部分を強調することで逆説的にハイライトし、歌を強調するもの、という位置づけであるとしたら、あながちこの最後の用法かもしれないという推測も大きく外しているわけではないのかもしれません。
実際に聴いてみると、私はしょっぱなの「Early Bird」から驚かされました。主役はガイか鳥か? そして2曲目、3曲目はどちらも2分に満たない小品ながら、何かがおきそうな予感はたっぷりと詰まっています。そして4曲目。最初のハイライトとも言うべき6分半ほどの曲。LPでは1曲目に持ってきている曲でもあり、音色や構成がドラマティックとすら言える。そして再び1分台の小品だが、タイトルにループとあるように、繰り返されるピアノのフレーズが印象的だ。そして3分半ほどのオルガンが印象的な6曲目は多少音質が異なるが、スタジオではなくサウンド・チェックからかもしれない。ジャズやブルースのテイストを盛り込んだヒューのオルガンが満喫できる。
7曲目には、先月6月度のジャーナルに後日追記された、ライブでも実際に演奏したことがあるという2曲のうちの1曲目「リピート・アフター・ミー」だ。ピアノとベースギターと思われる音がとても気持ちがいい7分半ほどの曲。8曲目は昨年7インチ・シングル「ハイリー・ストラング」のB面曲として発表された「エルスウェア」、どこか別の場所。シングルをお持ちの方には馴染み深く、持っていない方には新鮮に聞こえることだろう。そして9曲目は、再びジャーナルで言及されたライブでも実際に演奏されたことのあるもう1曲「ヒアズ・ワン・アイ・メイド・アーリアー」。こちらも6分に届こうかというほどの曲だが、ここでもベース・ギターを含めて極めて静謐でありながらサイケデリックな音世界が広がっている。後半の歪んだエレキ・ギターもこの世界を補強している。
10曲目は「真夜中か、そんなとこ」というタイトルの印象がそのままのジャージーかつブルージーなオルガンが主役の3分半ほどの作品。続く2分半ほどの11曲目では打って変わって緊張感のある音の断片がきらきらと、ゆらゆらとしながらも降り続けるような印象だ。それがフェードアウトして静寂が訪れると、その中から12曲目ののたうつ様なガイのドラミングがフェードインしてくる。そのドラムスをバックにピーターのエレキ・ギターがうめく。効果音のような音がそこにかぶさってくるとドラムスがフェードアウトするのだが、すぐに戻ってきて全体の曲調を引き締めている。
13曲目では、これこそVdGGというべき特徴的なオルガンとギター、ドラムスの、まるで作曲された作品であるかのようなアンサンブルで幕を開ける。できれば、そのまま展開させて歌をつけて欲しいくらいだ。2分半ほどで終了。もったいない、と思わず思ってしまった。
最後はもっとも長い10分半ほどの曲だがタイトルの「ドローナス」が示すようにドローン的な音響が中心の作品。なのだが、実際にはとても緊張感あふれる作品になっている。何なのだろう、この迫力は。
今朝の時点で7月度のジャーナルが投稿されましたが、鋭意翻訳中です。そちらの方は、北米ツアーと日本ツアーの合間で、今回の「フライト」演奏についてのもろもろが語られています。お楽しみに。
by BLOG Master 宮崎