"Loops and Reels" <Peter Hammill> |
"Loops and Reels" (1993:CD)
1. A Ritual Mask
2. Critical Mass
3. The Moebius Loop
4. An Endless breath
5. In Slow Time
6. My Pulse
7. The Bells! The Bells!
まずは、1982年にソファ・サウンドからカセット・テープとして発表された作品のCD版です。カセット版のジャケットに書かれてある内容についてはinVerseに掲載している私の解説を見てもらうとして、ここでは楽曲について見ていきましょう。なお、収録された楽曲、および曲順はカセットとまったく同じですから、マニアかコレクター以外の方はこちらのCDを手に入れられれば十分だと思います。カセットでは1から4までがSide 1 (20'20")、5から7までが Side 2 (22'50") となっていましたが、ここでは連続して聴く事でその境目の認識はあいまいにならざるを得ませんし、また、それにこだわることが良いのかどうか判断しかねます。それぞれ楽曲が発表されたのが別々の場である、ということもこのアルバムの特徴でしょう。後に2作がこの延長線上という位置づけで「実験」的作品集として発表されることになり、その第2作目ではこのアルバムを振り返って「アナログ機材での実験」と述懐している通り、用いられているのは時代背景を考えてみても決して新しいものとは言いがたいアナログ手法(テープ・ループ、テープの逆回転、テープでの多重録音など)です。そのため独特の音の手触りとでも言うべき仕上がりとなっています。
1. A Ritual Mask (1982)
カリスマ・レーベルの誇るもう一人のPeter、ピーター・ゲイブリエルの主宰するWOMADの協賛アルバムとして発表された2枚組コンピレーション「Music & Rhythm」が初出。珍しくアフリカの民族楽器を多重録音したもの。発売と同じ年に開催されたWOMADフェスティヴァルでは、ドラムスにスチュアート・コープランド、ギターにデヴィッド・ローズ、バイオリンにシャンカール、ベースにトニー・レヴィンというピーター・ゲイブリエル・バンドをバックにしたライブを行っている。残念ながらそちらは公式音源が残っていない。スタジオ・バージョンではPHが一人ですべての楽器を演奏しているためアフリカの民族楽器の持つ独特の響きが強調されている。CD版のジャケットのインスピレーションの元になった曲でもある。歌ものとしても一級の仕上がりを見せる。
2. Critical Mass (1982)
おどろおどろしいオルガン系キーボードの重低音のループをベースに逆回転でのギターや小刻みな金物パーカッションが重ねられ、金物のガムラン的な響きに、ついつい瞑想の世界に入り込んでしまいそうな曲。
3. The Moebius Loop (1982)
再び歌ものの登場。荘厳と言ってもいいコーラスワークに語りにも通じるようなメイン・ボーカル。これはスタンダードなアルバムに入れてもおかしくない出来。やはりコーラスのループが実験的だったためか、この曲は「Mediaevil」の発展形だと考えることも出来るかもしれない。「メビウスの輪」というタイトルも歌詞も非常に意味ありげだ。
4. An Endless Breath (1983)
タイトルの示すとおり重苦しい単調な通奏低音のようなループがなり続ける上にキーボードの断片的なフレージングが繰り返され、重ねられ、上塗りされていく。フレーズは時に低音の唸りにかき消されそうになりながらも短いパッセージを重ねる。純粋に音響的な実験を行った作品だといえる。
5. In Slow Time (1980)
「A Black Box」に収録された曲のバレエ公演用のテイク。基本的な構成は同じだがよりインスト的なリズムが強調されている。とは言っても打楽器が使われているわけではない。また聞き流している限りにおいてはオリジナルとの違いを感じることはない。「A Black Box」では実験的だと感じたこの曲もこのアルバムではむしろほっとする。目立つのはギターのEボウでの演奏。これは後のシリーズでも登場することになるが、かなり積極的に用いられている。ギターの陰でなっているキーボードはテープの逆回転を用いたもの。
6. My Pulse (1981)
本アルバム中最大の曲。70年代前半にPHが得意としたアルペジオのパターンを多用してループさせたテーマの反復は5同様にダンスのための楽曲であるためか。しかしながら、全体を通じて、抑揚を押さえながらもドラマティックとすら言える展開は、いわゆるPH叙事詩の威容を持っている。舞台上でのダンスがどのようなものであったのかは分からないが、この曲をインスピレーションとして創作舞踏を創ってみたくなる舞踏家がいても不思議ではない。映像的、あまりにも映像的な一曲。
7. The Bells! The Bells! (1983)
アルバム最後はふたたび低音を強調したループが特徴的な小品。くぐもった鐘の音が繰り返され、そこに重ねられる音もまたこもったような不明瞭さを敢えて持ちつつもその向こう側のエネルギーを感じさせるもの。
このアルバムはインストゥルメンタル・アルバムだと勘違いされることがあるようだが、結果的に歌詞のあるボーカルナンバーも3曲あり、程よいバランスだといえるだろう。また、「A Ritual Mask」「My Pulse」というなかなかの名曲も含まれており、決して見逃してよいアルバムではない。「My Pulse」は特に、70年代前半に多用されたPHの手癖とでも言うべきフレージングが、これでもかとばかりに繰り返されることもあり、他に聴くことのできない作品だといえる。
by BLOG Master 宮崎