PHと芥川龍之介 |
今回、東京に持ってきた本はこれだ、と紹介されたのが芥川龍之介の英語版「羅生門」をメインとした短編集だった。ピーターの弁によれば、まず最初のきっかけは黒澤明の映画「羅生門」を見て興味を持ったことだそうだ。
この本自体は、表紙の漫画風イラストが一瞬遠目には水木しげるの絵のように見えたのだが、確認してみると、海外での方が著名な辰巳ヨシヒロ氏のイラストだった。ピーターは、この短編集をどこで見つけたのだろうか?と思っていたら、公演の行われた新宿にあるジュンク堂の洋書のコーナーに平積みになっていた。どうやら、まだ刊行されて間もないようだ。ウェブ上で見ると、2006年に刊行され、2009年に重版されているようだ。ま、村上春樹が「紹介」を書いているのだから、それほど昔に編まれたものではないだろうなとは思っていたが、どうやら近年刊行だったようだ。
"Rashomon and Seventeen Other Stories" by Ryunosuke Akutagawa
英訳:Jay Rubin, Introduction:Haruki Murakami
"A WORLD IN DECAY"
- Rashomon
- In a Bamboo Grove
- The Nose
- Dragon: The Old Potter's Tale
- The Spider Thread
- Hell Screen
"UNDER THE SWORD"
- Dr. Ogata Ryosai: Memorandum
- O-Gin
- Loyalty
"MODERN TRAGICOMEDY"
- The Story of a Head That Fell Off"
- Green Onions
- Horse Leg
"AKUTAGAWA'S OWN STORIES"
- Daidoji Shinsuke: The Early Years
- Bunsho(The Writer's Craft)
- Baby's Sickness
- Death Register
- The Life of Stupid Man
- Spinning Gears
で、やっと本題。
ピーターは、この本を大変面白いと思ったようだが、その中でも、特に「Bunsho」が面白かったとのこと。短い作品で、その話を聞いた我々の誰一人としてその作品のことを知らなかった。そこで、私が翌日の昼間に新宿の本屋さんを回って、色々な出版社から出ている芥川龍之介の短編集のタイトルを確認したのだが、なかなか見つからない。そうこうするうちに、前述のジュンク堂書店の洋書のコーナーでピーターの持っていた本と同じものを見つけたのだ。そこで、もう一度タイトルと、出だしの文章を確認し、そこと日本語の本のところを何度か往復してようやっと見つけたのだった。
私が見つけたのは、ちくま文庫から出ている芥川龍之介全集。その第5巻に「文章」が収録されていた。「文章」以外にも上記の洋書に収録されている作品の内、いくつかが同じ本に収録されているので、興味がある方は是非読んでみてはいかがだろうか。
「芥川龍之介全集 5 」芥川龍之介 (ちくま文庫)
- 仙人
- 庭
- 一夕話
- 六の宮の姫君
- 魚河岸
- お富の貞操
- おぎん
- 百合
- 三つの宝
- 雛
- 猿蟹合戦
- 二人小町
- おしの
- 保吉の手帳から
- 白
- 子供の病気
- お時儀
- あばばばば
- 一塊の土
- 不思議な島
- 糸女覚え書
- 三右衛門の罪
- 伝吉の敵打ち
- 金将軍
- 第四の夫から
- 或恋愛小説
- 文章
- 寒さ
- 少年
- 文放古
- 桃太郎
- 十円札
- 大導寺信輔の半生
- 早春
- 馬の脚
- 春
「文章」は、簡単に粗筋を紹介すると、学校の先生をしているが、本当は自分は小説家だと言い、実際、時々短い小説などを発表している男性が主人公。しかし、彼の小説はなかなか売れず、学校の先生を止めるわけにもいかず、また、小説を書くには、収入の不足を補う必要があり、そのため、アルバイトとして慶弔ごとの文章を書いては売るという仕事をしている。
本業である小説のほうは、たまに出版されても書評で散々に酷評されたりもしているのだが、彼の書く弔辞はことのほか評判が良い。今も、小説の締め切りが近いというのに、急に亡くなった同僚の葬式で校長が読む弔辞を書いてくれとの依頼が舞い込んできた、そして、本当は良く知りもしない同僚のためにまことしやかな弔辞を書くよりも、自分の本分である小説に打ち込みたいのだが...などと思いながらも、お金がもらえると割り切って、短い時間でぱぱっと書き上げてしまうのである。
葬式当日、その弔辞を、これまたもっともらしく感動的に読み上げる校長に参列者からも涙する音が聞こえてくる。いかに自分がいい加減なことをしたのかを突きつけられているかのようで、恥ずかしさに葬式の間中ずっと俯いたままの主人公。そして、その帰り道。本来の自分の仕事よりも、片手間にいい加減にやっている仕事の方が人々に感銘を与えている、という実に皮肉な現実に...、
ま、こんな感じの短編小説です。ちなみに英訳のタイトル「The Writer's Craft」は「作家の手技」というほどの意味でしょうか。直訳の「Sentence」では、さっぱり意味・ニュアンスが通じないでしょうからね。
この「文章」の中に、ピーターは何を見出したのか。彼はこの主人公が理解できるといっていました。文庫版で約15ページほどの短い作品なので、皆さんも一度読んでみてはいかがだろうか。芥川龍之介とピーター・ハミル。意外な共通点が見出せるかもしれません。
そのほか、ピーターは、芭蕉にも興味があると言っていました。次は俳句か?
by BLOG Master 宮崎